毛玉

リズと青い鳥の毛玉のレビュー・感想・評価

リズと青い鳥(2018年製作の映画)
4.4
本作はテレビアニメ『響けユーフォニアム』の続編・スピンオフであり、完全新作のひとつの映画として成立している作品。頭がクラクラするような傑作でした。

日本が世界に誇るアニメーション制作会社・京都アニメーションに在籍されていた山田尚子さんが監督をされた本作は、他の山田尚子作品でも見られる「実写映画が負けるほどの丁寧な演出」「大切なモチーフを伝えるクロースアップと独特な構図」がとても楽しめました。
僕自身はテレビアニメの『響けユーフォニアム』を見たことはありません。また吹奏楽部の空気感も分かりませんし、楽器も演奏できません。完全な門外漢です。それでも、本作のセリフ以外での演出はやはり素晴らしかったです。山田尚子印のカメラワークや演出に加えて、特に音のコミュニケーションをこちらに伝えるアニメーションとその演奏がとにかくすごかった。

京都アニメーション作品、および山田尚子作品によく見られる「伝わるアニメーション」が本作でも炸裂していました。
物語が始まってから女性と2人の足元のクロースアップ。下駄箱での所作の違い。2人の位置関係、そして目線。おそらくこのオープニングシークエンスだけで語り倒せるほどです。また、窓が大きかったり登場人物たちとの距離感が近いように見えるのは、閉塞感や圧迫感や学校の鳥籠感を巧みに演出している気がしました…!
特に僕が好きだったのは、ピアノを弾く主人公の周りで他の女性と3人が会話する中盤のシーンです。文字に起こせばなんてことない会話なのですが、前半からのフリとカメラワークとそれぞれの人物の様子を映す演出によって、ホラーにもとれるほどゾクゾクとしたシーンになっていました。それぞれの性格や思惑が自然と伝わる凄まじいシーンでした。実写でやるとクドくなるからなのでしょうか、このような手法で演出をしている実写を見たことがありません。

フルートを担当する女生徒と、その彼女を慕う主人公のソロパートの掛け合い演出も素晴らしかったです。音楽がわからない僕でさえ、音符以外での音色の変化や、「今この瞬間2人はコミュニケーションをとっているんだ」と伝わるアニメーションがとても切ないのです。
登場人物たちの成長や変化はストーリーを推進する上でとても重要な要素ですが、本作では成長してもしなくても切ない展開になるのが本当に辛いのです。そのほろ苦さが青春や解放をテーマにした本作ととてもマッチしていた気がします。この2人の演奏シーンからラストシーンまで、あまりの素晴らしさに口があんぐりと空いてしまっていました。

青い鳥は誰なのか、リズは誰なのか。人それぞれに解釈が生まれそうですが、僕は両方ともリズで青い鳥だったからこその最後のソロパートシーンがあるのかなと思いました。寓話的な絵本の内容と主人公たちを重ねながら進むストーリーはとてもわかりやすく、本作の繊細さと美しさをグッと引き上げていたと思います。
余談ですが、絵本の世界観やサントラと相まって、少しジブリ味を感じました。
実写に負けずとも劣らない。なんなら下手な実写映画よりよっぽど美しい演出が散りばめられていました!青春モノ、ロマンシスモノとしても一級品だったと思います!
大好きな作品でした!
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