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リズと青い鳥のmのレビュー・感想・評価

リズと青い鳥(2018年製作の映画)
4.9
心理描写があまりにも繊細で細やか過ぎてそれ故に映画全体の『圧』が猛烈に強い、という新しい映画体験ができた。圧倒的に精密。

開巻間も無く主人公が登場した所から猛烈な繊細さが渦を巻き始める。音数が少ない中で日常音を繊細に強調して観客が余計な物音を立てる事を一切許さないサウンドデザイン、(友人の言葉を借りると)実写的なカット割りやレンズワークを丹念にやりつつアニメにしか(というか山田尚子監督にしか)描けない濃密な感情を描出する薄っすらシアンの乗った映像により、観客は集中力と想像力を極限まで高めて息を殺して暗闇の中で感覚を研ぎ澄ませ続ける事になる。完全に映画館向けの作品。

2人の女の子の間に起こるのは他人から見れば些細な事かもしれないが本人達にとってはアイデンティティを揺るがす問題で(心当たりのある人も多いだろう)、映画はそんな彼女達の心の揺れ動きに親身に向き合い、むせ返る程の濃度でその心の襞を徹頭末尾描き続ける。観終わってどっと疲れる、その濃さの圧倒的な素晴らしさ!なんて優しい映画なのだろう。

前述の音響や映像と並んでまた素晴らしいのが「モリのいる場所」「聲の形」の牛尾憲輔による独特の音楽。この人の音楽がこの映画に掛け替えのない何かを付与している。



主人公が学校に登校する所から始まり、お祭りやプールといった校外のイベントをことごとく割愛して学校の中にのみ舞台を限定し続けた映画が、最後の最後に・・という構成も御見事。

原作もテレビシリーズも未見だが、「聲の形」の山田組作品という理由だけで飛び込んで観てみて良かった。

女の子達の細やかに揺れ動く瞳が全編に渡って丹念にクローズアップで描かれる。そのあまりの注意深い繊細さに作り手の人間の心への想像力が詰まっていて、息を呑んだ。残酷で美しい友愛の映画。
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