Yoshishun

リズと青い鳥のYoshishunのレビュー・感想・評価

リズと青い鳥(2018年製作の映画)
4.3
“信頼と依存、才能と嫉妬”

京都アニメーション『響け!ユーフォニアム』に登場した2年生・希美とみぞれの2人を主人公にしたスピンオフ。
初見時は不器用な愛の物語とレビューしたが、TVシリーズ視聴後に鑑賞すると、TVシリーズにあった“本音を隠す”女子高生たちの姿が、山田尚子らしい極限にまで追求されたリアリティーをもって描写されていたことに気付く。作画は違えど、TVシリーズと描いているものは大差ない。

初見時は抽象的だと強調しつつも、実は本作の見方のようなものがさっぱりわからなかった。山田監督といえば、『映画 けいおん!』然り『たまこラブストーリー』然り、やはり青春の一部を切り取ったある種わかりやすい傑作がある。しかし、本作は単に青春の一部を切り出すだけでなく、気になる、あるいは好きな人に向ける視線や態度に纏わる映画だったように思う。

冒頭からお互い振り向きもせず、希美が前でみぞれがその後を歩き続けるシーンが挿入される。そして、みぞれは少なからず希美を信頼し、それ故彼女に依存しすぎているきらいがある。そんな見るからに希美一筋なみぞれは、劇中にも登場するリズのようである。孤独だったリズは、突然現れた青い髪の少女と出会い、一緒に生活していく中で彼女に依存していくこととなる。この青い髪の少女こそ希美であり、みぞれは希美なしでは何も出来ないし、希美の選択はみぞれの選択と考えるのである。中盤までは明らかにみぞれがリズであるかのように描かれる。

ところが劇中では、希美もみぞれに執着していることが見て取れる。例えば、図書館でみぞれが図書委員に延滞を注意されている中、突如として希美が助けに入る。一見、親友同士の何てことない絡みだが、図書館にはみぞれ1人でずっといたはずで、そこに希美はいなかった。みぞれの危機に颯爽と現れた希美は、やはりみぞれの憧れのようにも映るが、希美はみぞれの窮地を目撃していたことになる。この図書館でのやり取りのように、無意識にせよ、希美もみぞれに依存していたのだ。

とすると、みぞれはリズではなく、青い髪の少女なのか。そういうわけでもなさそうなのが本作の肝ともいえる。
リズは自身が依存していることに目を向けて少女をある種の呪縛から解放したい、少女はリズの思いを受け止め自由に羽ばたきたい。この2人の立ち位置は、希美とみぞれのどちらでも置き換えられる。「リズと青い鳥」の演奏後に2人が互いの才能と嫉妬をぶつけ合う姿と重なる部分もある。ただここでの希美は依然として素直にみぞれと話し合えてるわけではなく、どこか感情を爆発させまいと抑えているようにもみえる。あの時、みぞれが青い鳥で希美がリズだったが、せっかくみぞれへの依存からの解放を望んだにも関わらず、その決意が揺らいでしまうため、必死に押し殺したのである。だからこそ、希美が発した「みぞれのオーボエが好き」という言葉にあまり生気が感じられないのだろう。

希美の言った「物語はハッピーエンドじゃないと」という台詞通り、みぞれがそれまで見せたことのない表情を見せて終わるラストシーンは、これまで互いを執着し合っていた2人の今後を暗示させ、例え道は外れても繋がりが立ち消えることはないという希望を感じさせる。TVシリーズでは、本心を隠し大人のように振る舞う田中あすかという先輩部員もいたが、本心を隠したほうが幸せでいられるという後衛的な姿勢よりも、自身を曝け出しそれでも自分を受け止めてほしいという前衛的な姿勢を取っていきたいものだ。


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(2019.7.19初見時)☆3.8

作画すげぇ、そして首なげぇ。



……何て感想もありますが、

とにかく美しく、残酷な青春映画だったなぁ、と。

山田監督はアニメらしからぬリアリティーを出すのが本当に上手い。『映画 けいおん!』では愛してた場所(学校、そして部活)からの卒業、『たまこラブストーリー』では幼馴染から本当の恋への変化、『映画 聲の形』では罪の償い、そして解放がテーマでした。

そして、本作はレズビアンの物語という表現は似つかわしくなく、若くて不器用な愛の形を、たまに比喩的にありながらも鮮明に描き出した作品となっています。

過去の山田作品でテーマを描く際には、キャラクターたちが感情的になり、活発に動き出す結末が殆どでした。たとえば、けいおん!は最後は走り、たまこも最後走り、聲の形は思い切り泣く。しかし、本作はずっと冷静。いつもの"動"的なものとは対照的に"静"を追及したような表現に変化しています。

漫画的ではなく、敢えて実写に近いリアリティーに特化してきた京アニ映画が、本作で真のリアリティーの境地に達したのだと思います。このまま実写化しても問題ないような作品でした。

かなり抽象的な内容にみえますが、劇中の「リズと青い鳥」という物語を準えていきながら、親友であるからこその葛藤が生々しく描かれる。そしてその果ての二人の結末が幸せながらも、切ない。

ユーフォのスピンオフだからといって謙遜するのは勿体ないです。アニメだからこそ鮮明に描ける青春の姿、是非一度鑑賞してみてください。
Yoshishun

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