持て余す

マスカレード・ホテルの持て余すのネタバレレビュー・内容・結末

マスカレード・ホテル(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

東野圭吾×木村拓哉。

原作と主演の力か、邦画としてはかなり豪華な作り。高級ホテルの裏側が丁寧に描かれていて、日本映画だってこのぐらいのことができるのだと嬉しくもあり、これぐらいがスタンダードになる日はこないものかというモヤモヤした気持ちもある。

ガリレオ、加賀恭一郎といったヒットシリーズもあり熱心なファンも多い東野圭吾と、数多くのスターがいるジャニーズ史上でも最高のタレントであろう木村拓哉という2枚看板。

加えて、長澤まさみ、小日向文世、渡部篤郎、前田敦子に勝地涼の夫婦、濱田岳や笹野高史、菜々緒に生瀬勝久。他にもたくさんの有名な俳優が出演している。微妙な役所にやけに有名な俳優を使ってしまい、「なるほどこいつが犯人だな」というネタバレをしないで済む配役。

逆に有名キャストばかり出演していることの弊害もあって、正直なところ木村拓哉は木村拓哉過ぎて刑事に見えないし、他のキャストも含めて「あの有名人だー」という感じがある。サスペンス超大作というよりは娯楽大作なので見ていてそれほど気にはならなかったけど、これバランスが難しいところ。

たまにいる「邦画や日本のドラマが苦手」という人は、ここら辺の要素が大きいのではないかと思う。「有名人が有名人に見えてしまって没入できない」は、その有名な役者の技量で覆すのはなかなか難しい。見る側が悪いわけでもないけれど、それでキャストやスタッフを責めるのは些かお門違いに感じる。それって結局は“慣れ”と“積極性”ではないだろうか。

そんな豪華絢爛な有名人だらけのサスペンス映画はしかし、松たか子が終盤で全てをかっさらっていった。実のところ、この映画での松たか子について語ること自体がネタバレに近い。ポスターにも写っているし出演者のリストにも普通に並んでいるけれど、本来なら隠しといた方が効果的だと思う。

さて、松たか子の演じるこの人物は、かなり不自然な行動をとっている。一応の釈明はしているものの、目が見えないフリまでして下見をするというのはいささか過剰だと思える。色々な客のくるホテルにはあれぐらいヘンテコなのもいるかもしれないとは思うけど、ことミステリ作品では余剰な要素は伏線に決まっている。また、これだけ有名人ばかりの中で、演じているのが「はっきり誰だか判らない」のは、逆に不自然。

だから、そういう面はやや弱いけど、なにしろ松たか子が恐ろしい。ホテルマンに対する逆恨みは動機としては共感しづらいかもしれないけれど、共感できない理由で人を殺そうとするからこそ恐ろしいと感じるし、松たか子の力でその辺りはねじ伏せていると思う。それほどに良かった。

入口は「東野圭吾×木村拓哉」だったのだけど、出口は「松たか子の怪演」で幕を閉じました。興収もかなり良かったようだし、原作はシリーズ作があるのでその後の物語も見てみたい。松たか子は出てこないだろうけど。
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