ベルサイユ製麺

ローマンという名の男 信念の行方のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

3.7
ジャケがよぉ…。
デンゼルが観ろって言ってくるんだよぉ…。どの角度から見ても目が合うんだよぉ。
という事で、観念して以前から気になっていた今作を手に取りました☺︎
監督は『ナイト・クローラー』も素晴らしかったダン・ギルロイ。なんかハードボイルドな監督とのイメージを勝手に抱いてしまってましたが、ジェイムズ・エルロイと脳内でブレンドされていた模様。混ざロイ。

それで、この作品…めっちゃくちゃに渋い!霊園の側の商店のお菓子のラインナップぐらいのド渋なんすよ!

冒頭、画面いっぱいでタイプされる書面に困惑。“ローマンという弁護士が、自分の犯した罪で自分を訴え、自分で弁護する…”
?ひょっとして1人三役で、3人のデンゼル・ワシントンが最終的にウロボロス状態になったりするんなら、もう☆5.1確定なのですが。…或いは「お前のギターなんなんだよ!俺より目立ってんじゃねえか」と高見沢さんに食ってかかる坂崎さんを諌めるヒゲグラサン、3人合わせてTHE ALFEE…的な事かしら?←?

…ハイ!お話の構図はごくシンプル。
アクシデント的に食い扶持をなくした弁護士ローマン。桁外れの記憶力と情報処理能力、更に正義感を持つものの、他人との距離感のズレ、独特な拘りの身なり、何より融通の利かなさのせいで再就職が決まりません。
彼のスペック(のみ)に目を付けた大手弁護士事務所のスカウトを、主義に反すると固辞していましたが、完全に食い詰めたローマンは結局そこに入所する事になります。しかし清濁併せ呑めない性格と、単に変わり者なせいで所内では完全に孤立。プライベートでも酷い目に(マジで酷い!)。更には独断で行った業務上の致命的なミスで立場的にも精神的にも一気に窮地に追い込まれます。
…そんな時、彼の目の前に、彼にしか掴めない、しかし法にも職業倫理にも完全に反する金儲けの話が…。どうする?ローマン。

思い返しながら粗筋を書いていて、お話が存外に良くできていることに(伝わらねぇでございましょーが)驚いております。これは渋くて、とてもとても良い作品だった。

秩序を愛する(しかなかった)男が止む無く下した決断により彼の世界がみるみる姿を変え、その事が彼に更なる変化を促し、ついに真実に辿り着く。実際はとても狭い範囲の中で展開され、血の一滴も(画面上は)流れない、ごく小さなお話なのですが、まるで『インセプション』ばりにドラスティックに変革される世界の様相に息を呑みます。
演出、脚本は細密。人物造形も見事です。プロレス的に言えばベビー・ターンするコリン・ファレルの演技の微妙なグラデーションが素晴らしい。一方、彼と逆相で動くデンゼル・ワシントンなのですが…
彼の役柄の、〔異常な記憶力・空気の読めなさ・スタイルへの独特な拘り・iPod愛好〕などから、彼が精神になんらかの問題を抱えていることは明白で(iPod 、ダメかい…?)、自分にはその事が物語世界でプラスに働いているのかマイナスなのかは、今現在も判断出来ていません…。純粋に演技としてだけ見れば、明らかに彼の新境地で、史上稀に見る電話応対のキョドりっぷり、お金使うのの下手っぷりには萌え死ぬかと思いましたぜーーーーーー。
この二人の対比、思いが交錯する様子、高見沢さんのギターの造形などが繊細に描写されます。司法制度の丸見えの大きな綻びを真っ直ぐに射抜く眼差しの強さ・正確さには舌を巻きました。ラストの希望の光の差し方までなんたる真っ当さなのだよ。
個人的に驚かされたのは、この地味さにして体感時間の短さ!122分が90分未満に感じられました。ダン・ギルロイの手腕、恐るべし。今作と『ナイトクローラー』をセットにして、“現代アメリカの歪んだ正義とその裏側”を考える題材としてお勧めしたいです。
いやぁ、観てよかったです。これで面出しされたジャケのデンゼルと目が合っても堂々としてられますからね!「もう観たよ!サイコーだった!」って☺︎