TOSHI

娼年のTOSHIのレビュー・感想・評価

娼年(2018年製作の映画)
-
<以下、性的表現によりR18+指定の作品についてのレヴューです。念のため>

こういった性的なセンセーショナリズムが先行する作品には、映画として評価したい物が少なく、観賞を迷ったが、性風俗を巡る人間ドラマを描かせたら右に出る者がいない三浦大輔監督だけに、観る事にした。私は以前、男性同士の飲み会で、「抱かれても良い男性有名人」というお題に、「松坂桃李」と答えてしまった事があり、潜在的に彼のセックスシーンが見たい願望もあったのかも知れない(笑)。女性客が多く、両隣を女性二人連れに挟まれた、かなりアウェーな状況での鑑賞となった。

冒頭から、吐息や肉がぶつかり合う描写の生々しさに驚く。領(松坂桃李)と一夜を共にした女性のベッドシーンだ。松坂の身体が美しく、スクリーンに映える。
領は大学や女性との関係に退屈し、バイトに明け暮れ、無気力な生活を送っている。松坂の大人でも少年でもない表情や、やさぐれた感じの表現が見事だ。ある時、バイト先のバーに、中学の同級生でホストで働く進也(小柳友)が、客である静香(真飛聖)を連れてくる。そして領は店を閉めた時、車で待っていた静香に自宅に誘われる。
スタイリッシュな映像に、「赤坂」、「麹町」などと地名のテロップが出るのが印象的だ。静香は会員制ボーイズクラブ「パッション」のオーナーで、女なんてつまらないと言った領に興味を持ち、“情熱の試験”を受けさせようとしたのだ。領は相手役としてネグリジェ姿で現れた、口が利けない咲良(冨手麻妙)との行為を受け入れる。カーテンから射す月明かりの中で、映し出された二人が、海の中で抱き合っているようで美しい。
咲良はかなり反応していたが、静香から「あなたのセックスはこれ位」と5000円を出される。しかし咲良が5000円を足した事で、クラブの最低設定料金1万円を達成し、試験に合格する。

娼夫となった領は、セックスレスの主婦・ヒロミ(大谷麻衣)を最初の客として、女性達と濃密な時間を過ごす事になる。プラトンを愛読するキャリアウーマンのイツキ(馬渕英里何)、特殊な嗜好を持った泉川(西岡徳馬)とその妻(佐々木心音)、未亡人の老女(江波杏子)など、次々と客の欲望を引き出して満足させ、クラブのナンバーワンである東(猪塚健太)と競う、VIPクラス対応の売れっ子になっていく。排泄を見てもらうのが快感であるとか、妻への乱暴を見て興奮する等、客の様々なアブノーマルな性癖が描かれ、性の欲望の、哀しみを伴う滑稽さが露わにされる。

私は基本的に、映画におけるリアリズムだけでは褒めない。その上に表現される物がなければ、リアルというだけでは映画ではないのだ。究極のリアルなセックス描写というなら、実際に行為をしているのを見せれば良い事になってしまうだろう。本作のセックスシーンは、ビデオコンテを作った上にリハーサルを重ねて撮ったそうだが、計算されたアングルやレイアウトにより、単なる性行為ではなく、領と相手の繊細な感情が浮き彫りにされた、フィジカルコミュニケーションの表現に昇華されているのが凄い。それ故に、実際のセックスを見せるより本当の意味でリアルな、非常に映画的なシーンが生まれている。
如何に心を通わせたセックスをするかが、客の満足度を高め、それが領の自己実現・人としての成長に繋がっていくという設定が巧妙だ。
領は同性の東とも関係を持ち、更に危ない世界に踏み込む事になるが、同じ大学で、授業ノートをバーに届けてくれていた恵(桜井ユキ)が、領は体を売っている事を知る。物語は、恵が取る行動、静香が申し出たご褒美に領が求めた事柄により、意外な展開となっていく。そして明らかになる、静香や領に秘められた事実…。
確かに性描写はかつてなく過激で衝撃的だが、それ以上に、女性の深い欲望に領が触れる事で、女性が解放され、領も成長していく人間ドラマに感情を揺さぶられた。流石に、三浦監督ならではの作品で、切なく優しい気持ちに包まれる、想像を超えた愛のドラマだった。

私はセックスについて考えると、混乱してしまう。とても大事な事のようにも思えるし、まるで大した事ではないようにも思えるのだ。
本作を観て、やはり人間はより多くの、より深いセックスを追求すべきだという気分になったが、そうして肯定しようとする度に、生涯でしたセックスの回数より、映画上映前の「NO MORE映画泥棒」を観た回数の方がずっと多い事実(笑)に突き当たり、ろくろく恋愛やセックスもしないで、映画ばかり観ている人生の在り方を、自らに問わざるをえなくなるのだった。
TOSHI

TOSHI