Iri17

娼年のIri17のネタバレレビュー・内容・結末

娼年(2018年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

この映画は、人に心を開かない青年の成長譚であると同時に、日本映画ではある意味珍しいくらい女性を人間的に描いている。
もちろん日本映画にも、女性をリアリズムに徹して描いている素晴らしい作品は他にもあるのだが、この映画は他の多くの日本映画が描いてこなかった性のリアリズムと多様性を描いている。

例えば日本の高校生向けの恋愛映画の大半には、セックスの描写はない。ディープキスすらしない。嘘つけ!お前らもっとヤってるだろ!って大抵の人は突っ込みたくなると思う。この日本映画における謎の純潔思想の根底には、女性の感情や欲望、個性をステレオタイプ化、一律化している日本の女性蔑視文化があるのではないかと個人的には思っている。なにせ保健の教科書に避妊の項目を載せたらフリーセックスを助長しているとかいう国ですから。

話を元に戻すとこの映画は、フランスを中心としたヨーロッパ映画が描いてきたような、欲望のリアルと、多様な女性の在り方、生き方、感情を真正面から描いた作品だということが言えると思う。フランス映画なら『17歳』、『ピアニスト』、アデル、ブルーは熱い色』など、アメリカなら記憶に新しいのが『シェイプ・オブ・ウォーター』などが、女性に焦点を当てた、真のリアルな性愛や性と愛の多様性を描いていた。そういう意味で『愛のコリーダ』などいくつかの例外的な作品を除いて、日本ではほとんど描かれなかったことに向き合っている点が、この映画がとても挑戦的と言える点だ。

松坂桃李演じる主人公は、過去のトラウマに囚われて女性と正面から向き合えない。しかし、セックスを通して愛や人間の愛おしさを知るという点も面白い。満たされない女性や問題を抱える女性を、売春を通して救っていくことで自分も立ち直っていくという筋書きは、売春を肯定しているとも取れる。というか、完全にしている。
様々な女性との行為が描かれているが、一線を画すのは、大学の友人とのセックスだったと思う。行為中の涙は、お互い不器用で相手に真剣に自分の気持ちを伝えてこなかったが、セックスを通してお互いの気持ちを知ることができたという喜びの涙であり、また、これから歩んでいく世界が違うことを認識したことで一緒になることはできないんだと分かってしまったという悲しみのダブルミーニングの涙であり、まさに性を通して描かれる美しい人間ドラマだ。

ものすごく説明的に語るモノローグはウザかったが、日本映画の現在と未来に一石を投じる素晴らしい映画。

松坂桃李イケメンで売れっ子なのに、真っ裸になって、おばさんとセックスシーンやって、すごいな。こういう俳優としてのプライドを持っている俳優増えて欲しいですね。
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