ブロックバスター

十年 Ten Years Thailandのブロックバスターのレビュー・感想・評価

十年 Ten Years Thailand(2018年製作の映画)
4.0
ほほえみの国だけじゃない、タイの多様性が見れる作品。
10年後のタイの姿を、若手監督3人が描くオムニバス映画。
だが、
プロデューサーを務めるのは巨匠アピチャッポン監督(個人的には、感想が「???」となる作品を多く手がけている方)。

若手監督3人が描く最初の3作に通ずるテーマは(多分)「センサーシップ(検閲化)された社会と権力」。
最初の作品は郊外の穏やかな雰囲気の写真展に軍隊が踏み込んで検閲をする様子を描く。
でも、運転手を務める若い軍人が、軍隊と写真展の主催者側と異なる立場で板挟みになりながらも、写真展に勤めている女の子に淡い恋心を募らせている。

こういう穏やかな空気感を捉えているのがタイ映画のステキな所だよなぁ〜と思っていたら、続く2作目(異なる監督による作品です)。
顔がネコチャンになっている人間(?)が登場した瞬間、前作の雰囲気が一気に吹き飛びました。
人間を狩るネコチャン人間のサスペンスな様子を、ネコチャン人間(メス)と人間のダイアログで、危機迫る音楽描写で演出するのは見事(この頃にはもうネコチャン人間の違和感は無くなってます)。

そして一番ぶっ飛んでいて、かつ一番個人的に好きだったのは3作目。
再生ボタン、停止ボタンで全てが統制された社会を描いている作品。
女独裁者(タイにいそうな大柄なオバさんが軍服を着てる)が、再生ボタンと停止ボタンを操る世界で、それに反したものは罰を受けるのだが、これがまたかなり“エレクトロ”。
言うなれば『デジタル粛清』。
今年見た映画の中で、個人的に一番ぶっ飛んでいた作品だと言っても過言ではない。

最後はアピチャッポンによる作品。
それまでの3作では「今とは明らかに違う10年後のタイの姿」を描いていたが、アピチャッポンの見る10年後のタイは、日常のそれと変わらない。
人々はのんびり過ごしながら生きている。つまり彼にとって、今も10年後もタイの姿は変わらないというメッセージなんだろうか…。

かなりトーンがバラバラな4本が揃う作品。
それまでのタイのイメージは“良い意味で”粉々にされる。
ありきたりなエンディングを嫌う反抗心というか、『予定調和 is 何?』を突きつけられたような作品だ。