19世紀初頭に南米諸国をスペイン帝国からの独立に導いた英雄シモン・ボリバル(Simón Bolívar 1783年 - 1830年))を描いた2013年のベネズエラ・スペイン映画。原題「Libertador」英語題「The Liberator」は「解放者」の意味だが、日本語『リベレイター 南米一の英雄 シモン・ボリバル』は英語題に近い。本作では、エルナン・コルテスが16世紀の初頭に南アメリカに侵略してからスペインが300年にわたり南米を植民地ときたこと、それからの自由・解放を目的とすることを、ボリバルが語っている。南米の歴史上重要人物のボリバルを描いた映像作品が極めて少ないので本作は貴重。なお、DVDのジャケットに本筋に関わることが書かれているので、こちらは読まずに鑑賞をすすめたい。
本作は、ボリバルの妻マリア・テレサ・デル・トロ(演じたマリア・バルベルデは1987年生まれなので当時26歳だがボリバルの妻は21歳でベネズエラに上陸)との出会い、師シモン・ロドリゲスに促されてのフランシスコ・デ・ミランダが率いる革命に参加するのが前半。中盤から後半は、リーダーとなり、後に南米の歴史に名を残す部下・賛同者であるアントニオ・ホセ・デ・スクレ(第2代ボリビア大統領)、マヌエラ・サエンス(ボリバルの「永遠の愛人」)、ラファエル・ウルダネタ、フランシスコ・デ・パウラ・サンタンデル(コロンビアの初代大統領)、ジェームズ・ルークJames Rooke (1770–1819、イギリスの軍人)らが登場し、戦闘シーンが繰り広げられる。
本作では、ボリバルを金銭的に支援するイギリス人が登場するが、本心を明かさず不気味な存在で、南米の暗い未来が予見される。歴史的には、その後、南米は、スペインから独立するものの、実質の植民地化はイギリスから米国へと引き継がれ、20世紀から今日にいたるまで米国企業が経済を、米国CIAが政権をクーデータを起こすなどして、米国に搾取されており、真の独立には遠い。そうした中で、もっとも早く米国から独立したキューバのフィデル・カストロはイグナシオ・ラモネのインタビューからなる本「フィデル・カストロ みずから語る革命人生(岩波書店)」でしばしばボリバルについて触れ、リスペクトを示している。その中で、ボリバルがヌエバ・グラナーダで政権を樹立する時期に起こった1812年の大地震で「もし、自然が我々の企てに逆らうならば、自然と戦い、従わせる」という名言を引用している(同書、上巻p140)。本作では、ボリバルが先住民らに雨風地震はコントロールできないということを語るシーンがあるが、一方で、雪のアンデス山脈を越えてヌエバ・グラナダへ進撃し、多数の死者を出しながら、スペイン軍の裏を見事に衝いて、1819年8月7日のボヤカの戦いで勝利する場面が本作のひとつのハイライトになっている。映画ではルークはこの戦いで戦死したことになっているが、ルークが死んだのは、同年7月25日のBattle of Vargas Swamp である。
なお、本作には黄熱病(野口英世が罹患したことで有名)の描写がある。黄熱は蚊によって媒介される黄熱ウイルスによって起こり、現在でも罹患すると出血や黄疸が生じ、致死率は高い。本作では、蚊に刺された人物が、衰弱していく様子が描かれているが、手や顔がやや黄色になっており(黄疸のため)、細かいところに気が配られていると言える。