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ニッポンの教育 挑む 第二部の会社員のレビュー・感想・評価

5.0
元小学校教師による、地方における教育改革の挑戦を追った、渾身のドキュメンタリー。


菊池省三先生については、NHK番組『プロフェッショナル~仕事の流儀~』でご存じの方も多いと思われる。私自身は業界関係者ではないものの、彼のファンの一人である。
権威主義的なこれまでの教育観を徹底的に否定し、生徒の自主性を重んじる姿勢は番組を機に大きな反響を呼んだ。退職後、高知県のとある町・いの町の教育特使として招かれ、彼のメソッドを実践する模様を描いたのが、今回の作品である。第二段であるが、前作は未鑑賞。

彼のメソッドの特徴的な実践の一つが、「ほめ言葉のシャワー」と呼ばれるもの。毎日日替わりで一人の生徒が前に立ち、全員が順番にその人の良いところを発表する。褒められる生徒は自らの良い点を意識し、褒める側も他人と自分を比較して、双方が自分らしさを獲得し成長し合う、極めて単純にも関わらず画期的な取り組みである。
現場を担う教師陣はそうした菊池メソッドに惚れ込み、各々の教室でそれを取り入れ、菊池道場という定期的な勉強会、セミナーを通じて磨きをかけていく。


まさに現場からの、下からの改革が行政を巻き込んだ例であるが、作中で何度も行われる菊池先生の授業を見れば一目で納得することになる。従来の教育現場では、カリキュラムをこなす知識偏重・一斉授業のスタイルが主であり、生徒は大人しく席に座っていることを強要されていた。
しかし彼はもっと体を動かすダイナミックな授業形態を取る。そして何より、どんな些細なことでも必ず褒める。文字通りの対話型の授業は、生徒の心の障壁をあっという間に取り除き、教室には笑顔が溢れる。

特に印象的だったのは、授業を聞かず歩き回り寝そべり、先生からも半ば見放されたような、典型的な問題児だった。菊池先生はこう言う。彼には彼の学びのあり方があり、それを見つけてほしいと我々教師に訴えているのだ、と。
現に、あれほどの問題児でありながら、菊池先生の授業の最中は目を輝かせて主体的に参加するようになり、その過程がリアルで感動的であった。


本作のテーマでもあるのが、教育観の変革である。いくら上記のような成功例を目にしても、長年教壇に立つ教師の方々にとって、自身のスタイルを変革することは並大抵のことではない。しかし菊池道場に集まるのは、若い教師だけではなく、ベテランの先生方も多くいる。それは即ち、今の教育現場に対する悩みは万人が抱えるものであり、何かしら変えたい、成長したいという思いを皆が抱えているということの現れである。
菊池メソッドはそうした教師達にとって、取り入れやすくアレンジしやすいものとなっていることが、支持が広がった要因だろう。教師が変わることで生徒も変わり、クラス全体が成長していく様子が目に見える形で示されている。

日本の教育に対する悲観的な声は昔からあり、従来はトップダウンの改革しかなされず、苦しんできたのは常に現場であった。現在はカリスマ教師の草の根的な運動に過ぎないが、必ずこうした動きは広がりを見せていくに違いない。いの町から高知県へ、そして全国に派生し、日本の教育界がより良くなっていくことを願う。
上映館が限られていることが残念でならない。
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