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あいあい傘のKUBOのレビュー・感想・評価

あいあい傘(2018年製作の映画)
4.0
10月9本目の試写会は、宅間孝行監督・脚本「あいあい傘」。

家族を捨てて死を選ぼうとした男が、心優しき母娘に救われる。男には口に出せない過去があったが、その母娘と共に幸せな日々を送っていた。だが、ひとりの若い女性が突然現れ、男の周りには騒動が巻き起こる。

最初は談春の映画なのかと思ったが、これは倉科カナの映画。実は「ウェルかめ」の頃からファン。作品に恵まれてこなかったが、ついに良い作品に巡り会えた。彼女の全てをさらけ出すような演技には泣かされた。

冒頭からしばらくは市原隼人の独壇場。まるで平成の(もう終わっちゃうけど)寅さんだ! 高橋メアリージュンとやべきょうすけを加えたコントのような芝居も、ただ泣かせる映画にするのではなく、笑って泣ける人情喜劇にするための絶妙のバランスとして良い味を出している。

私は落語を聞かないので立川談春という俳優を意識したのは「下町ロケット」からなのだが、その時「誰だ?この見たことのない名優は?」と感じたのは言うまでもない。座長である本作でも、複雑な過去があり、複雑な今もある父を、俳優としてのキャリアは短くとも、円熟と言っていい演技で見せてくれる。

妻役の原田知世も「こんな透明感のあるおばさんはいないだろう」というほどの、永遠のマドンナぶりだ。

「くちづけ」のときは悲しくて泣いたが、「あいあい傘」では温かい涙を流した。

25年という時を超えた父と娘の邂逅が胸を打つ。宅間孝行は、21世紀の山田洋次だ。

(エンドロールにかかる竹内まりやの新曲「小さな願い」も作品の余韻を素晴らしいものにしている。)
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