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ホース・ソルジャーのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ホース・ソルジャー(2018年製作の映画)
3.8
 NYにそびえ立つワールド・トレーディング・センターに2機の旅客機が突っ込む衝撃の映像。日本ではゴールデン・タイム真っ只中のTVが突如中断し、各局が何度も何度も繰り返しその映像を流していたことを昨日のことのように思い出す。アメリカ時間では午前9時前の通勤時間に事件は起きた。ミッチ・ネルソン大尉(クリス・ヘムズワース)はブラウン管テレビでその瞬間を初めて目撃する。壁紙のペイントの途中で、愛する妻ジーン(エルサ・パタキー)と可愛い1人娘に囲まれ、子煩悩な様子を見せるネルソンの表情はその瞬間、凍りつく。アメリカ人ならば誰もが少なからず感情移入するはずの物語の起点に、クリス・ヘムズワースとエルサ・パタキーという実際の夫婦が挑むヘムズワース・ファンには涙ものの名場面である。かくして陸軍の内勤への転勤を命じられた男は、過酷な戦場に2年間、訓練を共にしたチームと舞い戻る。各人にはそれぞれの事情があるはずで、映画はハル・スペンサー准尉(マイケル・シャノン)とサム・ディラー(マイケル・ペーニャ)の事情にも踏み込む。ジェリー・ブラッカイマー製作の多くの映画がそうであるように、男たちの決断に女たちは反対したり、密かに悲しみの表情を浮かべている。

 2000年代の最も大きな事件となった「アメリカ同時多発テロ」から17年、国家の最高機密として封印されて来た特殊作戦がいま秘密のヴェールを脱ぐ。グリーンベレー12名は乱気流を抜け、山岳地帯の過酷な地形に降り立つ。彼らのミッションは僅か12名の精鋭部隊で戦火のアフガニスタンに乗り込み、半タリバンの地元勢力のドスタム将軍(ナヴィド・ネガーバン)を援護し、タリバンの拠点となるマザリシャリフを奪還すること。この過酷な作戦を時系列に沿って、折り目正しく描いている。今作に登場するODAとはアルファ作戦分遣隊を意味し、それぞれに個々の役割が割り当てられる。少数だが精鋭の部隊は二手に別れても、それぞれのユーティリティー性でどのポジションにも代替可能なのだが、今作では予期していなかった「馬」に乗るという行為が最大の障害となり旨味となる。実際に彼らは牧場の息子だったネルソン大尉を除いて、ほとんど乗馬訓練を行ったことがなかった。それが手綱捌きを覚え、狭い岩山を扱ったことのない馬に乗って山を越えなければならない。それは想像を絶するような困難だったろうが、この困難の描写が随分と簡素だったのは気になった。ネルソン大尉とドスタム将軍の密かな友情に注力するあまり、12名個々人の描写のバランスの欠如にも課題は感じた。タリバンの処刑シーンが必要だったのかも疑問が残る。ただデンマーク出身の新鋭のデビュー作はショットの構図が見事で、妙に落ち着き払った安定感がある。クライマックスにハルとサムの帰宅場面がないのが何とも片手落ちだが、気鋭のニコライ・フルシーの次作には十分期待が持てる。
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