YokoGoto

カメラを止めるな!のYokoGotoのレビュー・感想・評価

カメラを止めるな!(2017年製作の映画)
5.0
<映画好きのための一本。そして、間違いなく(邦画)今年最高の一本>

かつて、今みたいにネットもSNSもYouTubeもなかった頃、モノクロ映像で上映されるエンタメ映画は、人々の心を震わせる、最大の娯楽であった。
その頃に、いくつもの秀逸な作品を世に出した、黒沢明監督作品は、邦画におけるエンタメ映画のパイオニアであり、その豪快なエンタメ映画は、今も人々に愛され語り継がれている。

黒沢明監督作品のエンタメ映画といえば、七人の侍や椿三十郎など。
よく練られたシナリオと、妥協をしない演出、プロフェッショナルな役者達との絶妙なハーモニーは痛快で、多くの人々の心を満たした。

きっと、今みたいに多くの娯楽に溢れていた訳ではなかった時代には、黒沢明監督作品の娯楽は、日常の様々な煩わしさを忘れさせてくれ、その没入感に価値を見出したに違いない。

映画をみながら、あれこれ考えたり、主人公の立場になって感情移入しながら世の中を俯瞰でみたり。それまでに感じなかった視点を与えてくれるのも映画の力だ。だから、スクリーンのその奥は、思った以上に奥が深く、そんな体験をしたくて、人は映画をみたりするのである。

しかし最近の映画は、テーマも幅広く、社会派映画からエンタメ作品まで、実に様々だが、特に邦画においては、しっくりくるエンタメ作品に出会うことは、めっきりなくなったように感じていた。

エンタメ作品はあるにはあるが、子供っぽかったり、非現実的すぎてついていけなかったり。大人のエンタメは、すごく少ないと常々感じる。

そう、黒沢明監督作品の椿三十郎みたいに、なんだか、間の抜けたユーモアと人間愛に溢れた大人のエンタメ作品。めっきり出会えなくなった。

しかし。本作『カメラを止めるな!』は、正真正銘の最高のエンタメ作品だと思った。かつての黒沢明監督作品で感じられるワクワク感にも通じる、人々を幸せにするエッセンスがてんこ盛りに詰まった作品である。

見に行く前は、どんなテーマでどんな映画なのか、何も情報収集せずに、前評判のみで映画館に行った。それが大正解。『そういうことか!』と感動すら覚える満足感。そして、気分の高揚感。

映画が終わった後は、おもわず拍手をしたくなる感情にさえ見舞われた。

とにかく、脚本と演出がおもしろい。役者は、無名の俳優ばかりで、すべてオーディションで選ばれた人たち。そして、監督も34歳の新人監督のインディーズ作品。

ビッグネームで潤沢な予算で作られてはいないのだが、だからこそ、映画に対しての情熱と愛情で、観客を楽しませようとする映画人たちの熱い熱量が伝わってくる作品だ。

きっと、シナリオを書きながら、「観客はここで笑うだろうな」「観客はここで爽快に感じるだろう」などと、観客の反応を推測しながら楽しむがごとく映画を作ったように思う。限られた予算の中、大きな苦労もあったろう。

テレビCMでガンガンに宣伝されているわけでもなく、有名な俳優が出ているわけでもない。

そんな地味な映画ではあるものの、恐らく、今年の邦画ナンバーワンの面白さで観客を魅了してやまない作品、それが私の「カメラを止めるな!」の評価である。

映画館は、7割くらいの観客が鑑賞していたが、後半は怒涛のように笑い声が場内に響く。最初は遠慮がちに笑っていたものの、最後の方は、皆「我慢できない!」という感じでゲラゲラ笑う。

この観客の一体感。
みんなで、同じ感性で映画を楽しんでいる、そんな一体感に包まれた会場は、映画が終わった後は、みな笑顔に包まれていた。

映画とはこうでなければならない。
実は、娯楽で人を楽しませることは、非常に難しいスキルがいるものだ。しかし、監督はじめ、様々な映画人たちの熱い情熱が集まれば、本作『カメラを止めるな!』のように、面白く心に残る素晴らしい一本が世に出るのである。

個人的には、(邦画の)今年の一本は、この「カメラを止めるな!」で良いのでは無いかと思った。なによりも、低予算の無名の監督と無名の俳優たちによって作られたインディーズ映画の底力を、適正に評価すべきだと思うからだ。実際に、口コミで広がった本作の高評価は、連日満席の大入り映画となっている。

それが、若い映画監督を育て、素晴らしい作品が生まれて行くのではないかと思うからだ。だから、5.0点(満点)をつけました。
まずは、何の情報も得ずに、映画館に行って、この感動を味わって欲しいと心から思う。
YokoGoto

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