わたがし

カメラを止めるな!のわたがしのレビュー・感想・評価

カメラを止めるな!(2017年製作の映画)
5.0
 TOHOなんばの初日、全回全席完売という気の狂った事態に「どんだけすごい映画なんだよ」と思いながら観に行ったんだけど、何かまあ面白いしすごいけどそんなにめっちゃアツくなる気にもなれず、上映後の周りのいかにも普段映画館とか行かなさそうな人が「おもしれえ!!」って言ってるのを見ながら、なんでこれがこんなに爆発的にヒットしてるんだろうって頭の中にはてなマークが埋め尽くされた。
 しかも内容も映画頑張って撮るぞ的な、映画人が映画をテーマに映画を撮るという状態で作られる内輪作品、一般人からしたら「興味ねー!!」って感じなんじゃないの?という。「地獄でなぜ悪い」とか「ばしゃ馬さんとビッグマウス」とかクリエイターとか同業者にはぶっ刺さるけどそれ以外の人は「ふーん」ぐらいなんじゃないの?という。
 この映画の何が1番すごいって、クリエイターがクリエイターを描く時に必ずある、理屈抜きの「クリエイター賛歌!!」みたいなものが全然ないこと。社会で生きていくための妥協とか協調とか、そういうのみんなあるし、だからこそもちろん俺らクリエイターにもある、というところまでしか描かない。これは簡単なようで本当にすごいことだと思う。クリエイターってそもそも自己顕示欲の塊だから自分と同じ人種を描くとなるとすぐ英雄みたいに描いてしまう。それが本作にはない。だからサラリーマンが観ても公務員が観てもニートが観ても刺さる映画なんだろうし、トゥモローランド的な置いてけぼり感もない。
 それでもやっぱりこういう物語は苦労自慢になりかねないし(自分の属する業界での話を描くなら尚更)、結局エモいけど面白くねえよ、みたいなところに落ちてしまいがちだけど、これは描写描写を全部正統なガチガチのコメディに落としてしまう。そうやって「笑ってください」と観客に反応の仕方を示すことで、観るほうも、考える人はテーマなり何なりをうーんって考ることができるし、考えない人は考えない人でガハハって笑って満足できるようになっている。つまり観た人全員が満足できるようになっているという。
 その、ある意味での「保険」が自分はすごく鼻に付くなあと思ってしまったりもして、いまいち心奪われることはなかったんだけど、たくさんの観客を呼ぶための戦術の巧みさに頭殴られたような気がしたし、この監督今後絶対めっちゃデカい映画バンバン撮るんだろうなって。すごいよなあ
わたがし

わたがし