ロッツォ國友

カメラを止めるな!のロッツォ國友のレビュー・感想・評価

カメラを止めるな!(2017年製作の映画)
4.0
ポン!!!!!!!!


ポスターのビジュアルとタイトルの雰囲気から、まぁどうせハズレだろう(とても失礼)と思っていたら、あれよあれよと大ヒットしまくり、大慌てで観に行った次第!なんたる不覚!!w

これぞネタバレしたくない映画にして、語らいたくなる内容なのでレビューとしてあまり書けるところは少ないと思うが、まぁ記録も兼ねて内容に触れずに思うところを幾つかあげましょうかね。
そこそこで良いよね。


細かな部分への言及は避けるが、本作は、世に出回る映像作品であれば最も重要視すべき「映すもの」「映さないもの」の境界線に着眼を置いており、これは見事としか言いようがない。
ありそうでなかった感じが作品に逆に入り込みやすく、しかし決してヘタクソさを感じさせない無駄の無さとテンポ感にはケチがつけられない。
作り手達のワザの数々に舌を巻くばかりだ。

また映像作品という存在が作り物であるが故に、当然視聴者が胸に抱くであろう違和感や戸惑いのような感情までもを全てコントロールし、それらを作品上の面白さとして表現するテクニックにも驚かされた。
なんだ、そこまで狙ってたのか!
やられたなぁ、なるほどなぁ〜


何でもかんでも画面上に出していく情報化社会には常に映像が溢れているが、それらはすべからく人の手が入っており、当然そこで仕事をする人々がいる。
世界的に名の知れた映画監督や俳優女優のその下に、数えきれないほどの人々がそれぞれの立場で「映像」に携わって暮らしているのだ。
そんな、決して一番星にはなれない人々の、しかし情熱を持って仕事を仕上げる奮闘と輝きに、敢えて焦点を当てた本作の語り口には、誇らしさすら感じられるようだ。



さて、ネタバレは書きたくないので、最後に本筋と少しズレる話を一つ。
本作は極めて低予算との触れ込みだが、別に予算を頑張って節約した結果という感じはせず、この表現に最適な予算であったと思わせるだけの説得力を、奇抜な発想と精密且つ緻密な努力の積み重ねによって実現させている。これは凄いことだ。
実際も単に予算が足りなかっただけかもしれないが、いずれにせよ結果的に大勝利と言えよう。


でも、これは単に「カネをかけなくてもイイものが作れるぞ」というメッセージとして捉えるのはあまりよろしくないとも感じる。

比較するのはちょっとアレだけども、俺が最も愛する映画の一つ「第9地区」だって低予算だと言われてる。
でも、大幅予算オーバーでトラブル続出だった「ジョーズ」も大好きだし、こっちは映画史に残る伝説的ヒットを飛ばした。
何事も金が掛かるもの。映画産業においては予算の話が大きなファクターになっているのも事実だ。

しかし素晴らしい作品というものは、正しくリソースを費やし、作り手達の血の滲むような努力と信念によって作り上げられるもののはず。


300万円と3,000万円と、どっちが優れているかを論じるべきではない。
300万円には300万円でこそ表現できるものが、
3,000万円には3,000万円でこそ表現できるものがあるのだ。
そこに好き嫌いはあれど、良し悪しは決められまい。
我々は札束を観ているのではない。
作品を観ているのだ。

本作最大のストロングポイントのように扱われている「低予算」という決定的特徴は、資本主義的マーケティングにおける謳い文句や悪趣味な映画ヲタク達による陰湿陰険なウンチク合戦には絶好のネタに相違ないが、「予算」そのものは作品の価値を決める判断材料にはなり得ないと断言しておきたい。



それこそ本作は、決して高い予算は積まれないような、「そこそこで良い」程度の映像作品の為に奮闘する人々の輝きを表現しているから面白いのだ。
だから我々くらいはせめて、予算という要素は一旦忘れて、この作品が謂わんとしている事に目を向けてはどうだろうか。
作り手に焦点が当たろうとも、我々は作り手ではない。
表現の送り手の目線に立ちながら、同時に表現の受け手として楽しんでいる。
思えば、なんて贅沢な300万円の使い方なんだろう。



映像に映る世界の、そのすぐ外側で懸命に生きる人々が沢山いる。
それを映像で表現するという一種の挑戦的な自己矛盾を、飛躍した発想と技巧で卓越したエンターテイメントとして仕上げ世に送り出したこの職人芸に、心から拍手を送りたい。

とても素晴らしい映画体験でした。
ごちそうさま。

ポン。
ロッツォ國友

ロッツォ國友