ケーティー

カメラを止めるな!のケーティーのレビュー・感想・評価

カメラを止めるな!(2017年製作の映画)
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自主映画のハンデを逆手にとった諧謔の精神溢れる傑作


この映画は全くレビューや予告を見ずに、観た方が面白いかもしれません。実際、私もストーリーは知らず、予告も見なかったことがよかったのかもしれません。

※以下はネタバレになりうる記述を含みます。




観る前に聞いていたのは、三谷幸喜監督作品(「ラヂオの時間」や「ザ・マジックアワー」)を思わせるとか、ゾンビ映画ということだけだった。ただ前者のことは観る時には忘れていて、ワンシチュエーションで展開される構成・演出や初めの監督が怒るシーンの芸術至上主義というテーマ設定が演劇っぽいなと思いつつ、自主製作っぽいゾンビ映画だなとぼーっと観ていた。また、所々つっこみどころのあるシーン(※1)に笑っていた。

そして迎えるラストに、なんだこの映画はと思っていたら、その後はネタばらしのシーンがあり、これもよくある構成だな、ここからは蛇足になるかもしれないなと冷めて観ていた。

ところがどっこい、この映画がすごいのは、初めに観ていて感じた自主映画ならではの違和感、自主映画ゆえのハンデ(※2)をわざとだったとみせていくのだ。いわば、批評家精神で映画を観ていた観客に対して、こちらの狙い通りだと諧謔の精神で笑いにもっていくのである。たしかに、中盤は展開的には停滞するところもある。しかし、そこがあるからこそ、ラストの怒涛の感じが出る緩急にもなっている。また、何よりも派手な設定をせずとも、きちんとそれぞれの人物設定をして生かせば、笑いに変えられる、あるいは作品は成立するという、映画づくりの正統がこの作品の底流にはある。だからこそ、映画を観ている人ほど、痛快に騙され、ラストはこの映画が家族の物語だと知ったとき、どこか温かい気持ちにもなるのではないか。

製作者たちの諧謔の精神と真摯な映画づくりにいつまでも拍手を送りたくなる。そんな作品である。


(※1)具体的には、以下の内容。
・女優の下手な芝居(大袈裟な設定の説明と相まって個人的にツボだった)
・ちょっとちょっととだけ言って大げさに施設を出ていく男
・突然現れるゾンビのへんてこさ
・斧を見つけるときの脚本のセリフの下手さ・不自然さ
・(これは笑いではなく違和感だったが)そもそもこの映像は誰がとっているのだろうという不思議さ

(※2)自主映画ならではのハンデには、やはりスタッフ・キャスト・機材にお金をかけられないことがあるだろう。しかし、本作は演出の粗さもギャグに変えていくのである。(逆にギャグをつくってしまうことで、仮に他に粗いところがあっても気にならない、あるいは、そんなのどうでもいいと思わせてしまう上手さがある)
またキャストにお金をかけられないことは、うまい俳優を必ずしもつかえないということである。しかし、俳優でもワンポイントでキャラの立つ人なら、いくらでもいる。本作はそのあたりをうまく生かし、俳優の粗が出ないようにしてる。あるいは、妻役のようにかえって下手な演技はそれをネタにもして、他を目立たなくしているのである。ただし、出ずっぱりの主演を務めた濱津隆之さんは、まるで家族ものをやるときの阿部寛さんのような味があり、いい。本役以外のタイプの役も演じられれば、これから活躍していく可能性のある俳優なのではないかと感じた。