れい

愛の病のれいのネタバレレビュー・内容・結末

愛の病(2017年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

実在の出会い系殺人事件を描いているとのことで、暗く重々しい映画かと思ったら意外に明るく日常的で、笑いどころも所々あって色々な意味でとても面白かった。

日常的、と言うのは私にとって初見である主演の瀬戸さおりさんが、まるで呼吸や食事をするかのようにごく自然に当たり前に嘘をつき、誘惑し、エミコという人物として存在しているところで。ヤンキーや馬鹿、悪女、人でなし、そんな平たい言葉が似つかわしくないほど、緻密でリアルな人間として和歌山の土地で生きている。彼女と岡山天音という若い俳優がこの映画の世界観を形作っていて、一瞬の隙もなく心を釘付けにしてくれた。

彼女達のように若い頃は、好きになった相手をどうしても手に入れたい、ずっと身体を重ねていたいという欲求が最優先で、それが「病」であることは今の年齢になってようやく分かった。だからどんなに激しい恋愛感情も濡れ場も、どこか冷静に観ている自分に気づく。もっと穏やかに平和に生きられる道もあるだろうけれど、社会は彼女一人ではなく周囲も同じように発展途上の人間ばかり(そしてそれが健全である)、だからこそ彼女も徐々にその狂気を育んでいったのだと思う。ごく自然に、演技という言葉もふさわしくないほどに、彼女はその表情を変えていった。山田真歩さん演じる恋人の姉に憎悪(という言葉もまた軽く感じる)を初めて覚えた時のあの目、唇。脳裏を離れない。

その彼女に恋をして貢ぎ、殺人まで犯す若い男に岡山天音くん。その独特のビジュアルと突出した演技力で可哀想なほど当たり役として見事に世界観を作り上げていた。似合わない蝶ネクタイ、滑稽なオナニー、全裸での寸止め、本当に先っちょだけで終わるセックス等々が全て哀れな犯罪に繋がっていく。分かってはいたけれど、若手では突出した演技力を持つ俳優さん。

そんな彼等の表情を捉えたハンディカメラの撮影も、最初は酔いそうだったけどすぐに臨場感が優った。最近いつも思うのだけれど、撮影と監督の信頼感というものがとてつもなく素敵だな、と。そして撮影のセンスがどうやら映画の好みに大きく影響する。監督や脚本の名前とともに、撮影担当の名前にも注目しようと思う。今回は伊集守忠さん。覚えた。
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