カタパルトスープレックス

ファントム・スレッドのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
3.8
ポール・トーマス・アンダーソン監督による尋常ならざる、そして静かな愛のドラマです。ただ、ボクはこの作品をどう評価したものやらと悩んでしまう。

テーマは「ある愛の形としての呪い」なんでしょう。ポール・トーマス・アンダーソン監督は二項対立の図式が好きなので、そっちの方向に流れるのかな?と思うとそうならない。最後の方でテーマが現れてパッと視界が開ける。

主人公は王室御用達のプレタポルテの仕立屋レイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)です。そして、レイノルズが惹かれて共に過ごす女性アルマ・エルソン(ヴィッキー・クリープス)が対立軸にいます。レイノルズは「静」の人で、サプライズやルーティンを邪魔するものが嫌い。アルマもやはり「静」の人なのですが、少し性質が違う。自分のやり方でレイノルズを愛したい。ある意味において対等な立場になりたい。そのためには手段を選ばない。ちょっとしたホラーな感じ。

しかし、これが対立にならない。お互いがお互いを必要とする相互依存の関係にある。それがどんなに歪な形でも。人によってはそれを「呪い」と表現するでしょう。でも、そこにあるのは紛れもなく「愛」なんですよ。このテーマが本作をポール・トーマス・アンダーソン監督作品の中でも際立たせている部分ですね。

一方で長さを感じてしまうのはポール・トーマス・アンダーソン監督の欠点ですよね。本作に限ってはある程度の尺が必要なのは理解できる。しかし、ストーリーにあまり起伏がないので、中弛みを感じてしまう。そして、ポール・トーマス・アンダーソン監督にしてはキャラクター造形にいつものキレがない。

ダニエル・デイ=ルイスの演技は素晴らしい。物静かだけど神経質な仕立屋。完璧主義者ゆえに激情を内に秘めながら、紳士としてのギリギリの線を踏み越えない。ひょっとしたら『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』よりも本作の方が難易度の高い演技なんじゃないかと思います。しかし、周りを固める脇役のキャラがアマい。ポール・トーマス・アンダーソン監督は群像劇を得意として、多くの登場人物のキャラを立てるのが非常に上手いので、本作での控えめなキャラクター造形は少し物足りなかったです。

しかし、テーマはなかなか斬新なので、後半までがんばって集中力を切らさずに観続ければ、最後にはご褒美があるんじゃないかな。そんな作品でした。