菩薩

ファントム・スレッドの菩薩のレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
4.1
綺麗な薔薇には棘があるように、美しさと共に毒を有するのは何も虫や蛙、茸だけではない、人もまた美しさの裏には醜さと毒を有している。そんな毒を食らうのであれば皿まで食う覚悟で臨まねばならない、醜さを美しさで包み込もうとするならば、たとえ破れ汚れほつれたとしても、それを繕い時には布を当ててでも修繕を続けていかねばならない、それをきっと「究極の愛」と呼ぶのだろう。見せかけの美しさであれば人は幾らでも作り出す事が出来る、足りないところには綿を詰めれば良いし、気に入らなければ加工すれば良い、幾らでもごまかしが効く。だが真の美しさとは、美しき人間の姿とは…と、この映画が提示しているのは真の醜さの方だと思うが、ほつれ絡み合った運命の糸がそうして一枚の布を形成するのであれば、それを断ち切る権利が誰にあろうか。この作品の「I Love You」は正しくは「愛している」ではなく「あなたを呪います」であり「その呪いを受け入れます」なのであろう、だか愛が呪いで無いなどと誰が言えよう。どんなに歪な関係であっても、二人はその禁断の糸で裏地に狂気を縫い上げたドレスを纏い、あのハウスの中でこれからも二人三脚で、いや二人羽織で生きていくのだと思う、まるで飾り窓に陳列されたマネキンの様に。