タラコフスキー

ファントム・スレッドのタラコフスキーのレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
3.5
PTA(ポール・トーマス・アンダーソン)がまさかこの作品で再びアカデミー賞の監督賞候補になるとは予想外だったが、これを見た後に発表があったら更に驚いていたことだろう。

まさに職人的なダニエル・デイ=ルイスの風格や只者でないことが一目でわかるレスリー・マンヴィルの佇まいは素晴らしく、この二人がいるのといないのとでは画面の質に明らかな差が出る程だった。

逆にアルバ・ロルヴァケルを野暮ったくした感じのヴィッキー・クリープス(彼女の名前すぐ忘れてしまう)は庶民的で上の二人との対比にはしっかりなっていたけど、演技合戦する相手のレベルが高すぎたせいでさすがに格落ちしていた感は否めなかった。

映像的な面白味は殆ど無く、そこらへんで似た作風のthere will be bloodやthe masterより劣っていたとは思いつつ、演出としてダニエル・デイ=ルイスだけでなく観客側にも苛立ちを覚えさせるような音の効果が見られた場面が多く、神経質な人間の感覚になれるそういった点は上手いと思った。

ファッションデザイナーを描いた作品だけにアカデミー賞を受賞した衣装デザインや、ジョニー・グリーンウッドのクラシカルな音楽等技術的にも見事ではあったけど、成瀬の浮雲的で複雑な男女関係というテーマがどうでもいいものだったせいもあってか他の作品よりのめり込むことができなかったのは残念。

でも自分の好みを抜きにしても同系列のthere will be bloodやthe masterにスケール的にも劣っていたように思うから、この作品でPTAがアカデミー賞候補になったのは候補者全員初候補としたくない力が働いたせいとしか考えられない。

というかダニエル・デイ=ルイスはリンカーン大統領ならともかく、こんな若い女に溺れるファッションデザイナーを引退作にして本当にいいのか?