KnightsofOdessa

ファントム・スレッドのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
4.0
[人間マネキンは男の母親となり得たのか] 80点

PTAと私の関係も本作品に似ているように思える。いくら彼を待っても私の愛に応えてくれない。「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」「パンチドランク・ラブ」は大好きだけど、「マグノリア」「ブギー・ナイツ」「ザ・マスター」の精巧さは理解できても好きにはなれない。「インヒアレント・ヴァイス」に至っては恐ろしくなって見るのを止めてしまった。追い続けて10年近く経ったけど、彼との関係は発展しない。

本作品のデイ=ルイスは狂人でないと聴いていたが、安定の狂人で笑ってしまった。しかも、ぶっ飛んだ狂人ではなく、実世界にいそうな共感できる狂人である。そんな彼はアルマを"人間マネキン"として気に入り、家に招き入れる。ヴィッキー・クリープスがそんなに可愛くないのも"体目当て"との考えを導くには必要だと思うと唸ってしまう。
人間としてのアルマには全く興味を示さず、これまでの人間マネキンと同様デイ=ルイスの生活に併せるように求めるが、アルマの小さな復讐によって、デイ=ルイスの日常は少しずつ歪んでいき、最終的にアルマと自らを呪縛し続ける母親とを重ね合わせることで、彼女との狂気の愛を享受する。

時代はファストファッション台頭前夜の1950年代。プライドと気品が命の上流階級は挙ってステータスとなるドレスを作り、若い者はそれに憧れを持つ。徐々に失われつつあるモダンクラシックなドレスの数々は見ていて本当に美しい。何となくだがアルマの寸胴の様な(失礼)体こそドレスが似合うという理論もわかる気がする。

ダニエル・プレインヴューとレイノルズ・ウッドコック。PTAとデイ=ルイスのタッグで生み出された怪物は映画史に刻み込まれた。私はその歴史的な現場に立ち会えたことに感謝したい。そして、これからのデイ=ルイスには靴作りに精進して欲しい。お疲れさん。

追記
階段のショットが多い。私は階段フェチだからPTAとは話が合いそうね。
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