LudovicoMed

ファントム・スレッドのLudovicoMedのレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
4.4
題材が題材なだけに画面隅々まで凝ったディテール
とにかく美しさへの意識がスクリーンからにじみ出ている。
PTA監督の中でもここまで上質で文学的な匂いを漂わせる作品は異色です。
しかし作品を観ていくにつれどんどん人間の裏側のあざとさや、一線を越える瞬間など、その優雅さこそに恐怖を感じた。

ゆえに難解で知られるPTA作品の中でもどちらかと言うと、分かりやすいお話になっている。

50年代のイギリスが舞台となり、この時代特有の西洋の田舎感と上質な哀愁漂う独特の雰囲気が個人的に物凄くツボにはまり、こういう誰もいないガラーンとした異国情緒あふれる空間に図式的に二人が歩く様子の引きのショット。フィルムのクラシカルな質感。
他にも螺旋階段を使った上下関係の演出。
アルマの寸法を測るときの音の使い方や本当にずっとこの映画の世界に居たいと思わせられる。
前半はピアノ主導の音楽が延々流れやがて、バイオリンの緊張をせきたてるようなBGMに変わっていき、アルマがレイノルズに対しての感情の変化やドレスコーディネートのレイノルズの世界(劇中でかたられるゲーム)に入り込んでいくさまを、スコアで表すジョニーグリーンウッドもとても素晴らしい。

そしてこの映画のもう一つの主役はフード演出です。
登場人物の性格から物語を左右するアイテムに全てフードで表現されている。
起承転結の中で食事シーンの変化が物語的推進力をはかる役割。

完璧主義なレイノルズは常に母に対するもしくは母のような存在を追い続けている。
アルマという女性はまさにファムファタールで彼女に対する独占愛が芽生えていく。
つまりレイノルズは形としての愛情しか持てず、常に母の亡霊にとらわれている。
この辺りは登場人物の単純化も含めゼアウィルビーブラッドに近いですが、アルマとの立場の逆転がアルマ視点からのレイノルズの批判がとてつもなく恐ろしく、後半は食事シーンが物凄く緊張を観てる側に与える。

またPTA監督の新しい面が見られ細部まで堪能し尽くせる、本当に面白い映画だと思います。
LudovicoMed

LudovicoMed