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ファントム・スレッドのncccoのレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
3.0
PTA最新作。かなり期待していたのだけど、ちょっと上滑りした気分。
ストーリーもねじくれているなりにユニークだし、さすがの名優ダニエルデイルイスの演技が途方もなく素晴らしい。けど、なんとなく全体に漂う野暮ったさが鼻についてのめりこめなかった。それはちょっとしたドレスの腰のラインのもたつきだったり色合いだったり。ファッション誌のレビューでも「衣装が美しい」と絶賛されていたけど、みんなほんとにそう思ってるなら同じように感じられなかったのは単純に私がズレているのか、好みに合わなかったからなのだろうか。

今までゴリゴリに男の世界を描いて定評のあったPTAも、今までとは違う層を狙いたかったのか、根元からひねくれているけど見た目オシャレなハネケ的新境地を目指したかったのかわからないけど、いきなりオートクチュールものは少しハードルが高かったのでは、と思わずにいられなかった。ちょっとの歯車がすべてカチカチと小気味よく噛み合ってこそ成立する総合芸術である映画というものの難しさを、あたらめて感じた。

それでも兎にも角にも、主演のダニエルデイルイスから漂う色香が半端なくてそこだけはとっても満足。
たまに見せる計算された知性的な、ちょっと恥ずかしそうな笑顔がたまらなく魅力的で、こんなおじさまなら性格最悪でも呑まれてみたいと思わせてくれる。
何者も寄せ付けない、孤高のプライドと揺るぎない美意識。随所にいきわたる完璧さの全てが独善的がゆえに漂う性悪の香りを、積み上げてきた自らの価値で上品にくるんで見えなくして。彼自身も見ないふりしてきたそんな内面を、ヒロインアルマがぐいぐいとこじ開けていく。
指の震えだったり髪の毛の乱れだったりの細かな所作の隅々まで完璧にウッドコックが体現されていて、改めてダニエルデイルイスという俳優のすごさを感じた。

姉役を演じたレスリー・マンヴィルの存在感と主人公二人との掛け合いも絶妙で、弟の恋人を排除し自分たちの城を守るだけだった今までから、アルマを迎えていつしか子供のままの弟を女二人でなだめる構図へ家庭内勢力が変容していく描き方が面白かった。
「アルマがいると心が乱されてしまうんだ!」と叫ぶ弟を見て呆れる姉。そんなの今更何言ってんのこいつ的な感じの彼女の表情が物語の分岐点で、それ以降は天才デザイナー様といえど女たちの前でただの男として絡めとられていく。

ラストの二人の愛のカタチはいびつではあるけれど一つの完成形。その是非は分からないけど、この境地まで意地でも持ちこんで彼を手に入れようとするアルマの執着とずぶとさには感心したし、改めて自分に足りないものを感じたな。笑

とにかく、監督には今までみたいな路線に戻ってほしい気もしつつ、ビジュアルと中身のアンバランスを次で晴らしてほしい気もしつつ、複雑な気分。このもやもやは個人的PTAベスト「ザ・マスター」を観てはらすことととします。そして、思わず突き付けられて上滑りしたオートクチュール的恍惚感は「ディオールと私」を観てラフとともに涙し、そちらで充足することとしたいと思います。
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