KHinoji

ファントム・スレッドのKHinojiのレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
3.5
題材的に惹かれなかったので映画館ではパス、評判作であはるのでレンタルBDにて見てみました。
見た結果は、映画作品としてはやはり凄いな、と凄さは感じました。
が、個人的には興味が沸く内容ではありませんでした。

一番引っかかったのはこの映画、何が言いたかったのかよく分からなかったところです。もちろん明確な主張なんてものが、映画になければならないわけではありませんが、映画作りの意図が私には見えてきませんでした。
名優の引退記念映画を作りたかった、って言うのなら納得できなくはないですが、そういうわけではないでしょうし。

そもそもタイトルの「ファントム・スレッド」の意味するところが理解できなかったのが敗因かな。映画の宣伝で使われている恋人女性からの見えざる操りの糸、って意味ではないと思うのですが・・・?
スレッドはこの映画の題材だと、縫い糸を意味し、ファントム・スレッドは直訳すれば、「幻の糸」になります。
もともとは、昔の王族の服づくりのお針子が、過労のため仕事が終わっても見えない糸を縫い続けたことだそうです。それから考えると、ワーカホリック、仕事バカが本当の題材なのか?

男性は競争社会に生き、勝つことが人生の目的であり、言ってしまえば仕事バカになって、やがては神の領域に達することこそが目標の生き物である。
主人公の男性は、ファッションの世界でその神の領域に達した人物である。その代わり、結婚なんて仕事の邪魔になることはしない。
が、体は人間の男性である以上、恋はするので、自分のデザインした服を着せるための理想的な体型をした女性を好きになる。しかしながら、普通の恋愛生活なんてしないから、やがては女性の方から関係を続けることが出来なくなり別れるしかなくなる。
そういったことの繰り返し。
だが今回好きになった女性は普通ではなかった…と言うストーリー。

女性の側の目的は、優秀な遺伝子を獲得して、子供を生み育てることである。恋愛や結婚はそのための手段/道具でしかない。そのためには、才能がありかつ金持ちの男性をコントロールできることこそが優秀な女性である。
この映画のヒロインは、神の領域にいる主人公の男性を利用すべく、ある手段で神の領域から人間の領域にたたき落として、自分のものにしようとする。具体的には、結婚し妻になり、さらには出産し母親になることである。
で、その方法とは…

この映画のストーリーは、そういった優秀な男・女が、さらに生きていくためにお互いのやり方で駆け引きを行使していく様が描かれている。一般的にはそれを、愛と呼ぶのだけれども。

そういった二転三転していく男女の愛の駆け引きの表現は、映像も演出も見事であり、いかにも映画っぽいなぁと思います。そこは見事。
男・女の本質の違いや行動原理をキチンと理解していないと、ここまでのストーリーは構成できなかったと思います。

・・・それでも私にはこの映画はイマイチ分からなくて、評点的には低めになってしまいました。まぁ、人によって好きな映画のタイプとか、様々だしね。PTA監督と私は相性良くないんだろうな。
大昔に見た「マグノリア」は、凄い脚本だと思ったものですが。あ、本作も凄さは分かってるつもり。

なお、レンタルBDにも、メーキング等が少し入っていて、事前のカメラテストの様子も紹介されているのですが、本当に念入りに試されているのが凄まじかったです。お金と覚悟が無いと、ここまでは出来ないだろうな、と感じさせてくれます。
こういう努力があって、初めてこれだけの映像を残すことが出来るんでしょうね。
監督等の音声解説も付いています。より深く理解するためには聴いてみると良かったのでしょうが、今回は私はパス。

あと、この映画(およびPTA)について以下の解説が面白かったです:
https://www.club-typhoon.com/archives/24049793.html
特に、タグの”Never Cursed”(呪われない)の辺りを、どう解釈するかですね。

(2018/11 レンタルBDにて、字幕版)
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