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ファントム・スレッドの海のレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
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靴下の柄ひとつで嫌いになった人が居て、上着の脱ぎ方ひとつで好きになった人が居る。時間を忘れるほど気が遠くなるほど、引っ張り出した記憶と画面に流れる映像を行ったり来たりしていた。佇まいを思い描くだけで気持ちよくてため息が出るひとって居るじゃない。そしてその相手が、自分と同じくらい、正気で狂気で美しくて醜ければいいと思う。ううん、望む。願う、祈る。あなたの奥ゆかしさと荒っぽさの両方に夢想し、聡明さと浅はかさの両方にあこがれる。色んな距離から囁いて叫んで話がしたい、そして何よりそうやって目まぐるしく苛立つほど焦れていたい。自由で縛って呪いで解く、呼び寄せる恋に無口な愛。本当は報われない片想いなんて辞めたいんでしょ、プラチナで出来ているなんて嘘も本音も暴かれながら輝き続けて、どこまでも溶かしてほしい、いつだって。日々研ぎ澄ます牙を剥きながら、そこに血の味のくちづけを待ってる、本当にめんどくさくてそれほどにいとおしいよね、わたしは、あなたは。
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