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ベン・イズ・バックのGreenTのレビュー・感想・評価

ベン・イズ・バック(2018年製作の映画)
2.5
ジュリア・ロバーツがお母さん役で、ルーカス・ヘッジズが薬物中毒の息子役・・・・どうせセンチメンタルな家族モノだろうなあと食指が動かなかったが、とんでもない、これはガチだった。

薬物中毒の人は人たらしだ、って聞いたことがあって、「自分は中毒じゃない」って周りの人を信じさせるのが上手いとか、クスリは止めたと言いながらまた始めるんだけど、泣いたり色々演技して同情させたり、そういうのが上手いらしい。

ルーカス・ヘッジズは、いかにもそういう、表層的にポジティヴな好青年に見えるのに、なんだか胡散臭い感じが上手くって、この人「トラブルサムな青年」って十八番になってきちゃってるけど、こういう役ばっかりで楽しいのかなあと、余計なお世話ながら心配してしまう。

ジュリア・ロバーツ演じるホリーの家族は、最初は陳腐な感じがしたけど、長男のベンと長女のアイビーが白人なのに、小さい弟と妹が黒人で、後から現れるお父さんも黒人ということがわかると、これは上手い人種のミックスのさせ方だなと思った。ジュリア・ロバーツは『プリティウーマン』で爆発的に人気が出た頃、黒人の友達とバーに入ろうとしたら断られてめちゃくちゃ怒ったところをパパラッチされたことがあったり、もともと黒人の友達も多いようで、彼女のそういう人種感をちゃんと反映させたかったのかなあって思った。私は、ジュリア自身も黒人の血が入っているって読んだ記憶があるんだけど、今ググると出て来ないから記憶違いみたい。でも彼女のクリクリの髪とか、めちゃくちゃスタイルいいのはそのせいかな〜って思い込んでいた。

このベンの黒人の継父に、「ベンが黒人だったら、とっくに刑務所に入っていたぞ!」って言わせるところも、アメリカの人種問題をチラッと反映させているなって思った。白人だから、矯正施設に入って済んでいるだぞ、と。

中毒者の映画ではお馴染みの、サポート・グループの集会に参加するシーンが出てくるんだけど、このサポート・グループも不毛だなあって思った。今日でヤク止めて何日目です、頑張ってます、ってみんなに拍手してもらって、辛いことを共感し合ったり、挫けそうな時に励ましあったりする「仲間」がいた方が止められる、ってコンセプトなのはわかるけど、本音なんか言い合ってない。きっぱり止めるって決心した人は、もうサポート・グループには来ない。ここにいる人は「止めたくないよ〜」って思っている人ばかり。

この映画を通して感じたのは、一度ヤクの高揚感を覚えたら、どんなに罪悪感を感じても、どんなにヤクをやらない人生の方が良いとわかっても、抑止力にはならないってことだ。

私はちょっと砂糖中毒っぽいところがあるから理解できる。「甘いものが好き」っていうのは「いいじゃないの、ちょっとくらい!」って大目に見てもらえるけど、ちょっとじゃ済まない。ちょっと食べたら、止めどなく食べてしまうときがある。砂糖はちょっとだけでは済まない。タバコも同じだ。一旦始めたら止まらなくなるから中毒っていうのだ。

じゃあ始めなければいいんじゃん!って理屈では思うけど、でも、全くこれから一生、ケーキもチョコレートも食べない生活を考えたら、なんてつまらない生活なんだ!って落ち込む。ヤク中の人も、同じジレンマに苦しんでいるんだろうなと思った。

しかも、後で出てくるベンの幼馴染の中毒患者は、「もうハイにはならない。ただヤクをやっていないと気分が悪くなるだけ」って言ってて、そうなるともう楽しみですらない。

ヤクを止められないという苦しみだけではなく、中毒者はヤクを手に入れるために盗みをし、売人をし、売春をし、それが一生付いて回る。サポート・グループで、ジャンキーの女性に「あなたは私の売人だったのよ、覚えてないでしょ」って言われたり、自分がヤクをすすめたためにオーバードースで死んだ同級生のお母さんとは教会で会わなければならないし、一度犯罪に手を染めたら、そのスジの人はあなたを放っておいてはくれない。罪悪感も自己否定感も雪だるま式に大きくなっていく。

最初は、「ベンってヤク中だけど、お母さん思いの普通の男の子」って感じで描かれていて、観客はお母さんのホリーと共にベンの裏の顔を少しずつ知らされる形になっているので、母親が受けるショックを共有してしまう。

ここまで自分の息子が落ちてしまったと知ったお母さんの気持ちを考えるといたたまれないが、これに輪をかけて悲しいのが、ベンがヤク中になったきっかけというのが、14歳の時に脚を怪我した時処方された痛み止めなのだ。

これは結構ある話らしい。劇中では、ベンに「中毒性はないから大丈夫」と、ある種のペインキラーを処方していた医者が、すでに高齢で痴呆症になっていて、ベンのことを憶えてさえいない。ホリーがこの医者に「あなたが苦しんで死ぬことを祈ってるわ」って冷たい目で言う気持ち理解できる。

この映画で描かれるヤク中は、モトリーの伝記などロックスターの映画に見られるロマンチックでデカダンスな感じは一切なく、ただひたすらドライで悲しい。タイトル通り、ベンは戻ってくるが、本当の意味ではもう戻ってこない。