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ドント・ウォーリーのdm10foreverのレビュー・感想・評価

ドント・ウォーリー(2018年製作の映画)
3.9
【許すということ】

※実話ものではありますが若干NBも含みます。



まるで自転車かのようなスピードで疾走する電動車椅子。
そこには人生を謳歌するかのように体全体に風を浴びるジョンが乗っていた。
行きかう人の間をすり抜けるかのように走り去る車椅子は歩道と車道の間にある小さな段差に引っ掛かり転倒してしまう。
「誰か、助けて」
そこに駆け寄る地域の少年たち。
「転んだのか?」
「大丈夫?」
すかさずジョンを抱き起して車椅子に座らせる。
「・・・なんか臭い!」
尿パックの管が外れていたのだ。
「ここにこの管を挿すんだ。そうそこ」
素直に管を挿してくれる少年たち。
「これ何?」
散らばったスケッチブックに興味を示す少年。ジョンはおもむろに自分の書いた漫画を少年たちに見せながら語り始める・・・。

物語はこの少年たちに漫画を交えながら自分の数奇な半生を語る形で進む。

―――アルコール依存症のジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)は来る日も来る日も酒浸り。その日もパーティに出かけ、そこで知り合ったデクスター(ジャック・ブラック)に「もっといい女が来るパーティーへ行こう」と誘われるがままについていく。
いたるところでガンガン飲みまくる二人。吐いては飲み吐いては飲み・・・。
(運転は無理だ、止めておけ!)
車で帰ろうとする二人を見て止めてくれる人もいたがお構いなし。
・・・そして事故は起きた。

かすり傷程度で済んだデクスターとは違い、ジョンは脊椎を骨折し胸から下は完全に麻痺が残る障碍者となってしまった。

あるきっかけから彼は禁酒会というプログラムに参加することとなる。
そこで知り合ったのが会の主催者ドニー。
彼やプログラム参加者たちとの交流の中で、ジョンは自分が生きている意味を模索していく。

物語序盤では、とにかく自堕落な生活を送るジョンに救いを感じない。
交通事故のくだりですら、半ば「自業自得感」すら感じる。

しかしドニ―との交流の中で自身の生い立ち、アルコール依存に至ったきっかけ、そして今の自分を受け入れ切れていない自分、様々なものに気が付いてく。

――僕は誰からも愛されていなかった。母は僕が幼い頃に僕を捨てた。
養子に出された家で、義弟にイタズラをしたら彼は大声で叫んだ。でも義父が叱ったのは弟だった。僕は家族ではなかったんだ。
僕は奴らを許さないし、奴らも僕を許さないだろう。

「仕方ないだろ!僕は歩けないんだ!」
「何故歩けないんだ?」
「車で事故ったからさ!」
「何故事故が起きたんだい?」
「デクスターが酔っ払って運転したからさ!」
「何故君はそんな車に乗ったんだい?」
「それは・・・・」

そんなジョンにドニーが諭す。
『変わるために闘うんだ。闘わなければそこで死んでしまうんだ』

全て他者が悪い、自分は悲劇の主人公だと嘆いても、それは彼らからすれば所詮他人事。
全てを受け入れて「次のステップ」へ進むときなんじゃないか?

ジョンに光が差した・・・。

「先生お久しぶりです・・・」
「?・・・・おお、君か」
「偶然ですね・・。実は・・・学生時代の事を謝りたいと思ってて・・」
「何をだい?」
「僕はいつもトラブルばかり起こしていた」
「若気の至りだよ。君は才能があることはわかっていた。ありがとう」
ジョンは今まで係わってきた多くの人に謝罪しそして自分の中で「許して」いった。
そしてその中にはデクスターも含まれていた。

「・・・元気か?デクスター」
「!!(涙)・・・。元気だ・・・ずっとお前に会いたかったんだが・・・ビビっちまってな・・」
「俺の人生は君に会う前からとっくにダメになっていたんだ。俺こそ君に会って謝りたいと何年も苦しかった。」
「・・・ありがとう」

ジョンは「許すリスト」から一人また一人と名前を消していく。
そして、お母さんも。

(ねぇお母さん。僕を捨てたの辛かった?どうでもよかった?まぁどうでもいいさ。多分母さんは見つからないと思うんだ。でも、どこにいたとしても僕はお母さんを許すよ)

そして最後にドニーから言われる
(あとは自分を許すべきでは?)

ありのままに生きていくということとはありのままを受け入れるという事。
現実は厳しい。思い通りにもならない。
だけど、自分から一歩前に踏み出せば意外と世界は優しい。

以前観た「ワンダー」とテイストが似ているのかな?と思っていましたが、自分探しの過程で「他者と向き合う=自分と向き合う」ということがとても大切なんだということがよくわかった。




それにしても、ルーニー・マーラの透明感はチート級。
どの作品に出ても画面を爽やかにしてくれる。本当に美しい方です。脱帽。
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