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日日是好日のknjmytnのレビュー・感想・評価

日日是好日(2018年製作の映画)
3.9
なんてハイセンスな習い事なんだ。

夏には、滝の掛け軸をかけ、涼やかな籐の入れ物に夏の花をいけて、水指はさっきそこで水を浴びたような釉薬がかかってる。

お茶を飲む茶碗も、お茶菓子も、着ている着物も、あの空間にあるすべての道具や用意しているものが漏れなく季節とリンクしてて、ハイセンスすぎる。
すごい世界だ。

その丁寧にしつらえて用意された世界の真髄に触れるためには、意味も理由もない、一見超煩わしい数々の所作を身体に浸透させないとダメで、場を成立させるには受け手側もちゃんと努力をしないといけないことがよくわかる。

茶道具集めに躍起になってた戦国武将の気持ちがすごくよくわかった。
当時の最先端の超ハイセンスな総合芸術だったんだな。
血生臭い争いの時代にこんな世界が成立したっていうことが本当に面白い。

所作の違いから生まれる美しさもよく感じられて、美しい映画だった。

でもこの超高度な察する世界と、所作のさまざまなルールが、現代のマナー警察野郎が生まれる原因とつながってる気もしてきちゃったりもした。
深くその道に入り込んだ人はやっぱり優しいことは映画で伝わるけど、少しかじった人とかは所作に超厳しそうみたいな。


〈映画に1ミリも関係ない、大人になってから習い事をした時の自分の感覚の覚書〉

ふとしたキッカケで22くらいのときにはじめてデッサンを習いはじめて、3日間ひたすらりんごを描いていた。

正解はなんなんだ... って考えながら、ずっと描いて消して描いて消してた。
りんごが死ぬ寸前に修正を入れてもらったときに、
「りんごの花びらは5枚ある。だからその起伏が残ってる。ただの丸じゃない。」
そう言いながら先生が入れてく線がみるみるうちに目の前のりんごになって感動した。
頭のなかにあるのはどっかで見たイラストで、ずっとそれを描いてて、目の前のりんごのことは見ていなかった。
そんなあたりまえが出来てないことにビビった。

置いている机からの反射光、光のあたっている方向、曲面の陰影の移りかわり、、
目の前のりんごがどうやってそこにあるかを説明しながらいれていく線のひとつひとつが魔法みたいですごかった。
素直なまなざしと論理的な認識と丁寧な線とが重なって、本当に感動したんだ。

そのうち、箱を描いた時も教科書みたいな平行な線にしか箱を描けなくて、目の前の小さな箱にも遠近法が効いてることを教えてもらった。
(そのあとは遠近法効かせすぎがなかなか抜けなかった。)
毎日描くたびに発見があって、すごかった。

それまでの凝り固まった既成概念でしかあらゆるものを見ていなかったことに怖くなったのと、それがほぐされていくときの面白さと感動がすごかった。
りんごはりんごっていう言葉とわかりやすいイラストのまとまりじゃなくて、5枚の花びらからそれぞれがそれぞれに実って目の前に存在しているあたりまえを知ることができて本当に良かった。

帰り道に夜空は黒じゃなくて、濃紺くらいで、むしろ家とか木の影のほうが暗いことに気づいたときに、まったく新しい美しい世界が目の前に広がったことをいまだに覚えてる。

あれ、もしかして最初のモチーフのりんごって知恵の実とかけてたのか…ハイセンスすぎるよ先生
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