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ドイツ・青ざめた母のmhのレビュー・感想・評価

ドイツ・青ざめた母(1980年製作の映画)
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戦争に試される家族のドラマ。
タイトルはアメリカに亡命したブレヒトの詩から。
1939年に結婚したドイツ人カップルを通して戦争、出産、敗戦を経て戦後までを描く。
ナチ党に入会すると最前線に送られない(から、ナチ党にはいったほうが得)みたいなプロットがあった。
そうやってナチ党に入っていった一般人も少なくなかったということか。
国防軍が戦ったそのあとからSS(いわゆるアインザッツグルッペン)がユダヤ人、共産主義者、ジプシーを虐殺して回るという東部戦線のスタイルがようやく腑に落ちた。
自分が死ぬ確率が限りなく低いという条件が、人間の嗜虐性を高めるトリガーなのかもしれない。
仲間に馬鹿にされつつも貞操を守って帰ってきた旦那(数日の休暇)に、性交を拒む母。戦争に疲弊し、ひっぱたくようになってしまった父とか戦時の男女のありかたがリアルすぎる。
空襲のさなかに出産して、瓦礫と化すベルリンを親子ふたりでさまよう。娘に繰り返し語るヘンゼルとグレーテルが不気味だった。
実際のニュース映像をワンシーンとして取り込んであったりする構成が珍しくて面白い。
捕虜になっていた父がギリシャから帰ってきてようやく親子三人の生活が始まる。
ナチ党に入らなかった父は社会復帰と昇進が早い。ナチ党だった友人は戦後の裁判などでたいへんだったんだけど、時間が経つと、友人も昇進して、結局は追い抜かされてしまう。
ナチ党に入っていたのは世渡りがうまいひとたちなのだ。平時に戻れば、主義主張は関係なくなってしまう。むしろ、ナチ党OBであることが有利に働く場面も多かったことだろう。
戦後ドイツのリアルな姿はこれ。
母は母で、鬱と顔面麻痺を患うようになる。
戦争がテーマというよりも、あくまでいち家族のドラマだった。
「32回噛め、歯も32本ある」というセリフがまさか伏線になっているとは思わなかった。
面白かった。
mh

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