わたふぁ

ワン・オブ・アスのわたふぁのレビュー・感想・評価

ワン・オブ・アス(2017年製作の映画)
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“神に選ばれた民”として誇り高く生きるユダヤ教の人々。その中でも超正統派なコミュニティ、ハシド派から脱会した若者たちを追うドキュメンタリー。

その小さなコミュニティの中は、助け合いの精神が強く、互いの絆を強固なものにしている。戒律に従って慎ましやかな生活を送り、同じ服装、髪型、言語を話して限られた地区に集まって暮らす。自警団や医療機関、教育システムも独自に持ち、ある種“一つの帝国”を築き上げている。

生活に不自由はなくそれを快適だと思う人も多くいるが、人によっては、その世界はあまりにも狭く窮屈で、耐え難い差別もあり、自由はないと感じている。
脱会後、俳優を夢見ながらLAで車中生活をする貧しい青年、DV夫から逃れるも脅迫に苦しむ女性、信仰に疑念を抱いて脱会したはいいが薬物に手を出してしまった青年などが登場する。

脱会することは、親に勘当されるような大問題だったとしても、街を出たいと思うなら出るべきで、例え孤独になっても新たな土地で生活を始めるのもまた人生ではないか、、、と簡単に考えてしまうが、そういう親などの人間関係の“しがらみ”だけが問題ではなく、ユダヤ教の教育以外の一般教養がないため、ポンッと俗世間に放り出されても1人の大人として自立することが困難なことが大きな問題としてある。算数も満足に習っていないので、ファストフード店くらいでしか雇ってもらえないレベルだと言う。

帰れる場所は無いは、生きていく術もわからないは、となったら「死ね」と言われてるのとほぼ同じ。薬物などの犯罪行為に走るのは当然といっても過言ではないほどの悲惨さがある。

そんな辛い思いをさせないための「生活技能リハビリ施設」がある。これまで、男・女・子供も関係なく日常的にレイプや暴力を受けて育ってきた人々が、その施設で人間の尊厳について知っていく。
ハシド派の生活の中にはなかった真新しい全ての体験に喜びを感じ、前向きに取り組んでいければ良いが、全員が全員そういう訳にもいかない。

脱会した青年が、遠くを見つめて「どこにも所属したい場所がない」とつぶやいた姿は悲しかった。こういう時、地球は丸いのに“隅っこ”があると感じる。