MasaichiYaguchi

長江 愛の詩のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

長江 愛の詩(2016年製作の映画)
3.7
長江はチベット高原を水源地域とし、中国大陸の華中地域を流れて東シナ海へ注ぐ全長6300kmのアジア最長の川。
第66回ベルリン国際映画祭で銀熊賞賞(芸術貢献賞)を受賞した本作では、中国最大の商工業都市・上海を出発点に、南京、湖口、宣昌、三峡を経由して大河を遡っていく水上ロードムービーを繰り広げていく。
この水上ロードムービーでは、亡くなった父の後を継いでおんぼろ貨物船の船長となり、違法な或る「荷物」を運ぶことになった青年ガオ・チュンと謎めいた女性アン・ルーとの幻想的で叙事詩的なラブストーリーが、船内で発見された「長江図」という詩集に導かれるように描かれていく。
このミステリアスなアン・ルーは、主人公が遡っていく長江流域の様々な場所、港町、仏閣や歴史的建物、切立った岩壁、洪水で荒廃した村等に現れ、物語に絡んでいく。
更に彼女は長江を遡っていくにつれ、最初の所帯ずれした女からどんどん生気を取り戻して若くなっていき、純化していっているように見える。
彼女は或る場所から一時期姿を消すが、映画はそのことで彼女の存在が何を意味しているのかを暗喩する。
この長江の源流に向かっていく旅は、主人公にとって時間を遡るものだと思う。
旅立つ前に主人公が行った亡父の為にした「儀式」が、終盤に近付くつれて意味を持ち、輪郭を成していく。
更に船内で発見された詩集が誰が誰に向けて書かれたものなのかも分かってくる。
この美しい映像詩の作品は時の流れを背景に、主人公の幻想的な恋愛劇を縦軸に、そして急激な経済成長によって変わっていく長江流域を横軸にして、貨物船が川面に起こす波のように我々の心を揺らめかせる。