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恋は雨上がりのようにのdm10foreverのレビュー・感想・評価

恋は雨上がりのように(2018年製作の映画)
4.1
【始まりはいつも雨】

何となくね・・・映画を観ている最中に浮かんできたフレーズなんです。
若い方はピンとこないかもしれませんが、ちょっと前に騒ぎを起こしたASKAさんのソロシングルの一曲です。あ、僕はギフ○ブとは関係ありませんので(笑)

この映画を観るまでね、正直小松菜奈さんをあまり可愛いと思ったことがなかったんです(ファンの皆さんごめんなさい)。
勿論端正な顔立ちだし「綺麗な子だな」とは思ってましたが、その独特の威圧感というか、極端な猫顔というか・・・

「苦手なタイプかな」と勝手に敬遠してました。
きっと目つきがキツイというか、どこか他人を寄せ付けないオーラにまんまと弾き飛ばされた一人なんでしょうね。

だからこの作品を観ようと思ったのも実は本当に偶然で、本当は「ジュラシックワールド」と「インサイド」のハシゴの予定でいたのですが、どうにもこうにも時間が合わず「じゃあ、何だったら合うわけ?」と半ば切れ気味にスケジュールを確認していて、ドンピシャだったのがこの作品でした。

「小松菜奈かぁ・・・・。ま、我らがローカルスターの大泉洋が出てるし、観てみっか」

・・・ごめんなさい。小松菜奈さん。いい!
出だしこそ「う~ん、この目つきがさ~」なんて斜に構えて観ていましたが、気が付けばスクリーンを同じような目つきでガン見している自分がいました。

(あれ?この子、いいかも・・・っていうか、いいわ)

パッと見の印象自体は変わっていません。ちょっと怖そうだなという。
だけど、そんな彼女が普通に笑ったり普通に泣いたり普通に挨拶する様をみて、そのギャップに「なんと可愛らしい子なんだ・・・」と。

きっと・・ですが、この作品のキャスティングの時点で小松菜奈を当てたのって、狙いですよね。
単純にストーリー的なものだけじゃなく、ビジュアル的なギャップの部分でも。
一見「近づきにくい」雰囲気の女の子の「普通の部分」を見せることで起きる反動の共感みたいな。
厨房の先輩が賄いを作ってくれたら、不愛想でも「ありがとうございます」ってちゃんと言うし、同級生の作った賄が真っ黒こげだったとしても「ありがとう」と受け取って、必ず一口は食べるし、恋に効果があるといわれるキャラクターのキーホルダーを当てるためにめちゃくちゃガチャを回し続けてみたり、怪我がきっかけで距離を置いてしまった部活や親友にも八つ当たりをするわけでもなく普通に接するし。

根本的な話をしてしまいますが、この作品は観る人の年代や性別によって見え方、捉え方は全く違うと思います。
「うらやましい」
「ありえない」
「結構リアル」云々。

僕個人の感覚で言えば、嬉しいけど、でもやっぱり・・・・。
それは長いこと生きている間に背負ってきた色んなものの重さや大切さを知っているから、それを簡単に捨てることは出来ないという、ある意味「ネガティブ」な抑制。
そして、自分自身も遠い昔に経験した淡い憧れの甘酸っぱさやその末路を知っているから、頭から否定もしないけど、せめて実ることもないであろう恋心を素敵な思い出に昇華させてあげたいという偽善な自己満足と・・・。

「同世代の人を好きになるのに理由は要らない。でも僕みたいに年の離れたおっさんを好きになるのには理由が要るよ」

唐突な彼女(あきら)の告白に動揺しながらも、誠実に対応しようとする店長(近藤)。
彼自身、ずっと小説家を目指して頑張っていたが何もかも中途半端でうまくいかない。
結果奥さんとも離婚してしまい、息子とも離れて暮らすこととなってしまう。

そんな自分を「好き」と言われても、確かに本人からしたらわからないよね。
何故なら、彼は至って普通に「優しくて」「真面目」だから。打算などは微塵もなく。
だから、足にも心にも傷を負ってしまったしまった彼女に、フッと寄り添った絆創膏のような優しさだったんだろうね。
でも傷が治れば絆創膏は剥がさなければならない。
雨が止めば傘は閉じなければならない。
つまりはそういうこと。
そういう時に店長の優しさに触れてしまったんだよね。
だからきっと年齢も何も関係なかった。

でもその「絆創膏」は正しい絆創膏でよかった。
ちゃんと傷を治してくれる絆創膏だったから。

半ば強引に店長を誘って連れ出した初デート。
照れながら「もう帰ろっか」と繰り返す店長に「店長の好きなところに連れて行ってください」と返すあきら。

(!!)
・・・はぁ、本当に俺はダメなおっさんだ。「チャ~ンス」とか考えてるうちは(苦笑)。

結局店長は彼女を「図書館」へ連れて行きます。そしてお薦めの本を聞かれた店長はこう答えます。

「本は一方的に進められて読むものじゃないんだ。幸いここは図書館。きっとここには橘さん(あきら)を呼んでいる本がいると思うよ」

そして彼女が気になって手に取ったのは、怪我のあと自ら距離をとっていた「陸上競技」の本・・・。
一方の店長も一冊の本の前に立っていた。それは大学の同期だった奴が出版した小説。
二人の心の中で何かが動き出す瞬間。

土砂降り雨の降る夜、風邪をひいて家で寝込んでいる店長を家まで見舞ったあきら。
そこでお互いの思いの丈をぶつける二人・・・。

雨があがった。

決してお互いの存在が「夢や幻」だったわけじゃない。
雨で前が見えなくて、傷で足が上がらなくて、そんな時にそばにいて自分を無言で肯定し続けてくれた人がいたから、次の一歩が踏み出せる。

瑞々しい映像と、優しい人々、そして小松菜奈のギャップに打ちのめされたdmでありました。
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