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ゲティ家の身代金のBluegeneのネタバレレビュー・内容・結末

ゲティ家の身代金(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

70年代に起きた、石油王ジャン・ポール・ゲティの孫の誘拐事件を題材にした作品。セクハラ問題でケヴィン・スペイシーが降板し、クリストファー・プラマーを代役に起用して撮り直したことで話題になった。

イタリアの犯罪組織というとシチリアのマフィアが有名だが、この事件を起こしたのはカラブリア州のンドランゲタという集団。他の犯罪組織よりも暴力的なことで知られ、営利目的の誘拐をビジネスのひとつとしている。

ポールIII世の母親のゲイルはポールJrと離婚する際、慰謝料などを受け取らない代わりに三人の子供の親権を得ていた。母親に身代金の支払い能力がないことが誘拐犯たちの第一の見込み違いだったが、第二の見込み違いは祖父のジャン・ゲティが無類のケチだったことである。

どれくらいケチかというと、豪華な邸宅に来客用の公衆電話を置いているほど。そしてどれくらい金持ちかというと、「毎日マティスを1枚買えるくらいお金があるくせに」とゲイルに罵られるほど。

こうしてゲイルは誘拐犯相手に身代金を値切る一方で吝嗇な舅から身代金を引き出すという、二つの交渉をすることになる。とはいえ、舅も孫のことが憎いわけではなく、誘拐犯との交渉のために自分が信頼する元CIAエージェントのチェイスを助っ人に送る。

冒頭でポールIII世がローマで誘拐されたあと、映画はまだポールIII世が子供だった時代に遡り、ゲティ家の三代とゲイルという家族のおよその関係が手際よく語られる。

その後は誘拐犯とポール、ゲイルとチェイスの話が交互に描かれる。実際の事件がベースだから最後にどうなるかわかっているが、今一歩で救出作戦に失敗したり、自力脱出に成功するものの連れ戻されたりと、うまく山場を作ってラストまで飽きさせない。特にジャン・ゲティに身代金を払うと言わせたゲイルの意気地は見ものだった。ミッシェル・ウィリアムズはクリストファー・プラマー相手に一歩も引かず、見事な演技を見せたと思う。

最初に書いたように、この作品は撮影完了の二ヶ月後にスペイシーのセクハラ問題が発覚し、公開まであと一ヶ月というタイミングで監督がクリストファー・プラマーで撮り直す決定をした。そしてこれは結果的に良かったのではないかと思う。

ケヴィン・スペイシーは非凡な俳優だったし、この役でも全身全霊で吝嗇の化身のような怪物的なゲティを演じたのではないだろうか。彼は爬虫類的な酷薄さを感じさせるところがあり、この人のゲティは身代金を払いそうにないなという気がする。

対してクリストファー・プラマーは、若いころの美男子ぶりの面影のある品のいい顔立ちで、ゲティの強烈な個性を和らげ、最後の聖母子像をかきいだくシーンでは見る者に憐憫さえ感じさせる。そしてちゃんと身代金払ってくれそう。

ゲティの逸話を読むと、実際の彼はスペイシーが演じたであろう人物に近かったのではないかと思う。が、プラマーの怪物的だけれどどこか人間味のあるゲティの方がエンタメ作品にはふさわしいだろう。もっとも、スペイシー版も見てみたい気はするが…

チンクアンタと名乗る誘拐犯の一人は「世界中の金」を持つ祖父がいるのに身代金を払ってもらえないポールが哀れになったのか、最後には彼の逃亡に手を貸してやる。原題にもなった”All the money in the world”を、ジャン・ゲティは信託財産として管理していた。そうすれば節税になるからだ。信託財産とはつまり勝手に使えないお金であるが、信用によってモノを買うことはできた。そうして買い集められたのがあの莫大な美術コレクションだったそうだ。
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