【誘拐サスペンスと『市民ケーン』の融合】
世界一の大富豪の孫が誘拐された。しかし、孫の親権は息子と別れた元嫁にある。大富豪は迷わず声明を発表した。「私には14人の孫がいる。もし身代金を払ったら、他の孫も誘拐され、毎回身代金を払わなければならない。50億円は高すぎるだろ。ゼロだ」
貧乏な母に立ちはだかるのが誘拐犯だけではなく、世界一強欲な元義父というのが本作のミソ。
主人公は母のはずですが、偏屈な爺さん役のクリストファー・プラマーの圧倒的存在感の前では霞みっぱなし。
クリストファー・プラマーの演技が素晴らしいことに異論はないのですが、彼の生々しさが作品のバランスを崩してしまっていたようにも感じます。
特殊メイクを施したケビン・スペイシーならば、もっとブラックユーモアを感じさせる軽妙さがあったんじゃないかと。
とはいえ、プラマーの重厚な演技によって、『市民ケーン』に似た余韻が生まれたのも事実。孤高の成功者の人となりへの興味が、物語を紡ぐ推進力になっています。
かつて榊英雄監督作『誘拐ラプソディー』でも、逮捕されたOしいMなぶの役を撮り直すという処置がとられましたが、つぎはぎ感は否めませんでした。
しかし、こちらはハリウッド。本作では、アップだけ差し替えなんてせせこましいことをせず、しっかりシーン丸ごと撮り直しているようです。
プラマー以上に、リドリー・スコットを筆頭にクルーが頑張りましたね。素晴らしい!
作品は終盤の畳み方に難はあるものの、テンポのよい誘拐サスペンスに仕上がっています。
観るのが少々きつい残酷な描写もありますが、リドリー・スコットの映像美を堪能できる本作は、間違いなく一級品です。