このレビューはネタバレを含みます
世界一の金持ちでありながら、誘拐された孫の身代金の支払いを拒否り、値切り、挙げ句の果てには節税に利用した世界一のどけちジャン・ポール・ゲティによるどけち指南物語。
確かに、セクハラ容疑でリアル【ユージュアル・サスペクツ】になってしまったケヴィン・スペイシーの代わりに急遽呼び出されてジャン・ポール・ゲティを演じたにもかかわらず、ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞、アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされたクリストファー・プラマーの演技も、ロケーションによって色調が統一された映像も、時代を反映させた選曲も、素晴らしいと思いますし、実話ベースなので仕方がないとも思いますが、物語が淡々と進み過ぎて盛り上がりに欠ける仕上がりに…
リドリー・スコットの演出のせいなのか、デヴィッド・スカルパの脚本のせいなのか、わかりませんが、金に翻弄される人間の滑稽さを描くのであれば、もっとケレン味をぶち込んで、サスペンスかコメディに振り切って欲しかったです。そうすれば、ホテルのランドリーサービスを利用せずにバスルームで洗濯したり、自宅に公衆電話を置いて客から電話料金を取ったりするどけちエピソードも、誘拐犯が覆面し忘れて正体がバレたり、ボヤ騒ぎを起こして脱走したりする間抜けエピソードも、もっと素直に笑えたと思います。でも、バイオレントな耳切り取りシーンでわざとらしくピュルピュルと血が噴き出す演出を考えると本作はオフビートなコメディだったのかもしれない…
とりあえず、誘拐犯から解放された息子を抱きしめる母親、彼らと同じ構図で描かれた聖母子像を抱きしめてひとり孤独に死んで行くゲティ、彼の微笑む銅像を見付けて涙を流す母親の流れは、金に翻弄される人間の滑稽さ見事に表現していたと思います。