レオピン

工作 黒金星と呼ばれた男のレオピンのレビュー・感想・評価

工作 黒金星と呼ばれた男(2018年製作の映画)
4.0
【虎穴に入らずんば虎児を得ず】

ユン・ジョンビン監督38歳。この題材でこの若さというのにびっくり。
北の核開発について探れ。この事を知っている者は3人、私(安企部室長)と部長とコードワン(↑)だけだ。

初めは北への潜入工作のために送りこまれるが、やがて上層部の思惑にさらされてより過酷な工作が待ち受けていた。その間で翻弄される「黒金星」ことパクチェソ(朴采緒)。そして北朝鮮要人との奇妙な絆、友情が描かれる。

この作品、特に照明が優れていた。北京のホテルのオレンジ調がなんともよい。また将軍さまの居城のセットも。吐きそうなまでの緊張感からの白いワンこに悶死した。

スキャンダラスな展開を見せるのは後半、韓国与党議員がその北京のホテルで北と接触する。「そろそろ選挙なんです。また1発ミサイル撃ってくれませんかね」。。いわゆる北風工作。

己の生存を図るため国を売るようなことを平気でする輩。安企部廃止なる情報を入手したせいで組織防衛に狂奔する。その為に潜入員の命が危険になっても切り捨てる。どこかで見た光景かも。

長年因縁のある金大中だけは絶対に大統領にしてなるものかという、ほぼ私怨に近い動機で動いていた安企部。北は北で、親北の金大中を勝たせたら今後やりにくくなると冷徹な判断を下していた。これには先の文政権を見ていたらなるほど納得だが。。

パクは愛国心から上司の命に背く。スパイにはスパイの掟がある。何の為にこれまで自分は危険を冒してきたのか。
ならばここは鬼が出るか蛇が出るか。もう一度将軍に会いにいってやれと。リはリなりに中国の改革開放を尻目に餓死者まで出ている今の悲惨な状況を何としてでも打開したい。ここでパクとリが立場を越えて同じ目的に向かって金正日を動かそうとする。なんなんだこの胸アツ展開!

二人は共同で将軍様の御前でプレゼンをする。決して目を合わせるな、何より話を遮るなと厳命されていたにも関わらずここでは熱く説得を試みる。
その中で保衛部のチョ課長のとった行為を暴露する格好となり、彼は強制収容所送りとなる。

終盤はパクとリ所長との絆が焦点。自宅に招待しプレゼントを渡す、その後の顛末は。。
この辺り『ブリッジ・オブ・スパイ』にも似ていて国家を跨いだ男二人の友情に胸が迫る。

「信じる以外 ほかに道はありませんから」

お互いに祖国のために命を張って行動した。そこだけは認める。そこだけが通じたのだろう。

終幕、南北交流の場でかつての強敵(とも)の姿を探すパク。お互いに一度は捨てた命だからこそのあのありえない再会。偽ロレックスをまだ大事に腕にまいていたリ所長。そして彼から貰ったネクタイピンを大切に胸にとめていたパク。
ここはもうあかん ボロボロでした。。

北朝鮮対外経済委員会リ所長にイ・ソンミン(李星民)。東京03の角田のような笑い方をする。
北朝鮮保衛部チョ課長にチュ・ジフン(朱智勲)。北の保衛部は汚い。キムホンパとクラブでダンスする姿は笑
北朝鮮対外経済委員会キム部長にキム・ホンパ。親族がパルチザン系なのか金王朝に批判的。録音に気づかなかった。
安企部室長にチョ・ジヌン(趙震雄)。この人ずっとコミカルな役でしかみたことなかったのに意外。

劇中、安企部室長が政治家たちに退席を促し、実務者同士で腹を割った話をというシーンがある。ここでは政治家は徹底的に愚かで軽い存在として描かれる。黒金星の正体を明かさせたのも彼らだ。

わりと直近でも韓国の情報機関と日本の右派とのつながりについての報道があった。ま日本のウブな愛国者は転がされているだけだろうが情報機関は国益となれば左右問わず接触してくる。映画ほど単純な図式ではないだろうが魑魅魍魎の世界であることには違いない。

ニュースの陰で実際に何が行われていたのかなんてほとんどの国民は知る由もない。事実は小説より奇なりというが、とにかくアツいこの分断国家が映画のネタに困ることだけはないだろう。
レオピン

レオピン