マクガフィン

工作 黒金星と呼ばれた男のマクガフィンのレビュー・感想・評価

工作 黒金星と呼ばれた男(2018年製作の映画)
3.4
冒頭から南北分断の朝鮮半島の地図に「East Sea」と記入している抜かりなさに苦笑いしたが、朝鮮半島が地図の中央から左にズレて日本が記載されていることが分断のメッセージにも。韓国と北朝鮮の近親憎悪と朝鮮統一への願望の表裏の愛憎が内包されたスパイ映画に。セカンド上映で鑑賞。

重厚な心理サスペンスを基軸とし、スパイの腹の探り合いや交渉の駆け引きの緊張感を心拍数をなでるように刺激するBGM演出で、国・体制・組織・個・文化・思想の違いを浮かび上がらせることが効果的に。只、スパイになるために、北朝鮮の仕草や言動が大仰で胡散臭く、軽くバカにしているようにも感じるし、それでは、一般人と軍人が違い過ぎるのでは。韓国語の抑揚あるイントネーションがテイストに効果的で、字幕では余り気にならないのが韓国映画の特有なのだが。

外部要因や仮想敵国を設定して国を纏めるのは政治の常道手段で、韓国の政権が交代するとスタッフが総入れ替えしてスパイ組織が蔑ろにされる懸念に。スパイの上司は、国や組織の利益が優先しといいつつ、自己保身に走り、北朝鮮の攻撃を利用しようという愚かさに繋がる。組織とは対照的に、国の保護と人道的扱いの無い〈個〉のスパイ活動に追い打ちをかけるように、時代の移り変わりとともにないがしろにされ、〈個〉が国家の陰謀に飲み込まれ用無しになることに胸が痛くなるが、韓国側の政治背景はセリフ説明だけなので、その辺の弱さが作品のバランスの狂いにも。

そんな過酷な政治背景がある中で、思想や環境が全く違う同志による密かに絆と信頼と友情の〈個〉と〈個〉の育み、理想へ一歩でも現実化する為に〈暗黙の了解〉による前進が両国の切望に繋がることに。立場を超えた個々の人間達の懸命な理想への追求と、虚構の政治を対比的に炙り出すことで、緊張感が続いたラストに訪れるエモ的な演出に静かな安堵感が漂うことに。