アズマロルヴァケル

闇金ぐれんたいのアズマロルヴァケルのレビュー・感想・評価

闇金ぐれんたい(2018年製作の映画)
3.2
伝えたいことがどっちつかずだったノワールっぽい映画

・感想

初見で観たところの結論だが、やりたいことや伝えたいことは分からなくもないが、結果的にほっこりさせたいのか、シリアスにさせたかったのか、どっちに着地したかったのかが中途半端にまとめられてしまった映画なのではないかと思った。

この映画はお互いに東北地方に生まれた
正次と大輔がお互いに東京で出会い、闇金の組長に拾われてヤクザの傘下として働くといった内容で、それまでは寿司屋で真っ当に働いていたのだが、寿司屋では未だに皿洗いばかりなのでふたりとも寿司屋を辞め、挙げ句の果てには他人の財布をひったくっては焼肉食いに行こうとまで言う始末であり、ある意味ごろつきのような生活を送っていたふたりではあります。

各登場人物はそれぞれ個性的なキャラクターが多く、吃音症を持つ大輔の恋人、小さな工場をやっている野球の応援歌を歌うパニック気味の男性、真っ当な弁護士を呼んで訴えようとする純喫茶を経営しているアフロのウィッグを着けたおばちゃん、ぬいぐるみの旅行代理店を経営しているが、中身は経営者本人は旅行に行かずにブルーバッグで合成した写真を利用者に送っている詐欺まがいの旅行会社『イナゴトラベル』を経営している旅行代理店の女性、街頭で震災の復興を訴える正次の幼馴染、絵に描いたような闇金の組長、街頭で演説をしているが、正次に向かって(「約束を守らないのが政治家だ」と言って逃げる政治家の男性、父親がぬいぐるみの旅行を申し込んだことは裏腹にぬいぐるみを旅行することは
子どもだましだと思っている足の不自由な車椅子の少女、とメインキャラからサブキャラまで個性的なキャラクターが登場している。最も、笑えたのは平然のようにアフロのウィッグを着けていたのに
正次が弁護士に暴力を振るっていたりするとアフロのウィッグを脱いで反抗しようとする純喫茶のおばちゃんが笑えました。しかもそのアフロのウィッグは正次と大輔を盗られてかつそのアフロのウィッグは正次の幼馴染のもとへ行ったからますます面白い。


演出は少なくとも正次と大輔の日常の風景を捉えているかのような演出であり、全体的にカメラを動かさずにむしろ定点カメラのようなカメラワークが多い。盛り上がるような演出はなく、地味ではあるが、正次と大輔の生活観を映すかのようなほっこりとした仕上りにはなっている。

だが、演出はともかく脚本がとにかく残念な印象である。ストーリー自体は約80分なので割と人物描写は正次と大輔、そして舞香と闇金の組長ぐらいしかないので結果的にはあっさりとしているのでしょうがないかもしれないが、ちょっと荒削り。そして後半から毛色が変わるので映画では何がメインで伝えたいのかが中途半端になっている。

まず、正次と大輔がヤクザの傘下になった経緯はいいとして、何の前触れもなく恋人の舞香が正次と大輔の前に現れるので責めて大輔と舞香が出会ったきっかけや吃音症を持つ舞香にどう惚れたのかが弱く、説明がほしいところ。結局後半は舞香の存在がトンズラして逃げちゃうのでラストぐらいは正次の側にいてほしかったと個人的には思う。

次にラストで大輔がある人物に刺されて殺されるのだが、闇金の人だったら納得がいくんだけどその人物は前半のみの登場でそんなにメインで活躍しないので何故この人物が大輔を殺すのかは物語としては説得力がそこまで感じられなかった。その人物は闇金自体に恨みがあったと思うけど結局納得いかないって感じてしまう。

そして最も引っ掛かるのが前半からラスト手前まで正次と大輔の友情が描かれている若干青春映画ともとれる内容だったのにも関わらず、ラストは急に東日本大震災の傷跡を提示させるラストシーンになっていて、それも大輔の父親が行方不明で実家の寿司屋が津波で流されたという深刻な事実が明らかになるので、果たしてこのメッセージ性が要るかと言われたら要ると思うんだけど、「闇金ぐれんたい」というタイトルなのに良くも悪くも裏切られてしまった。

少なくとも『仮面ライダーエグゼイド』で仮面ライダースナイプ役だった松本亭恭と『逃走中』でかつて月村サトシを演じた細田善彦を観れるだけで充分の作品になってしまったかなぁとは思う。恐らくだが監督のいまおかしんじさんは脚本家との相性が悪かったのではないかと思うのが私の意見ではある。唯一の救いは
舞香役の仁科あいさんはこの映画のなかでは松本亭恭さんや細田善彦さん同様に華があったので人選は良かった。