しの

プーと大人になった僕のしののレビュー・感想・評価

プーと大人になった僕(2018年製作の映画)
3.4
スケールは小さく、物語構成も非常にシンプル。その分プーの金言がダイレクトに響くということか。大人vs子供、仕事vs家庭、赤い風船vs書類カバン……等の二項対立は正直鼻につく。戯画化された会社や分かりやすい悪役など、内容の割に単純すぎる気はする。プーのトボけた可愛さが見所。

誰をターゲットにしてるのかイマイチ不明。ミドルエイジ・クライシスを扱う話なので、そういう「かつてプーと遊んでた子どもたち」に向けたものなのだろうが、それにしては前述のように内容が単純すぎる。一方で子どもにとっては陰鬱だし、「日常の中の非日常」モノの弾けた楽しさも薄い。

そもそも、「仕事人間が忘れていたものを見つける話」ってそれ自体はスタートとゴールが最初から定まってるくらい陳腐なので、大事なのはその過程であり、本作の場合プーたちとの交流がそれにあたると思うのだが、これが金言やら「それって風船より大事なの?」みたいな割とあざとい会話やらに頼り切ってるのであまり面白くない。

つまり、いちいち「大人に向けた視点」みたいなものが入り込んで、純粋にプーたちとの交流を楽しめないのだ。どうもプーたちが「大切な何かを思い出させるための装置」に思えてならない。

例えば、カルチャーギャップネタやらプーのオトボケネタやらにも、やっぱりそういう「位置付け」を感じてしまう。後半、ダメ押しのように主人公の娘とプーたちが「探検」するパートがあるが、ここですらイマイチ突き抜けない。話をシンプルにすること自体は、プーの「シンプルで本質的な行動指針」にマッチしていて良いと思うが、これだとプーらと遊んでいるというより、セラピーを受けている感じがする。それってどうなんだろうか。

とはいえ、ラストの着地は好き。プーらがぬいぐるみという典型的な移行対象をモチーフとして描かれているので、セオリー通りの結末を予想していたら、いい意味で裏切られた。あの優しさは好印象。ただ惜しいのは、やはり彼らと「遊ぶ」楽しさが描写不足なので結末の効果が薄れ、なんだか取ってつけた感が出てしまう点だ。

総評としては、ミドルエイジ・クライシスの話としても、動物キャラ実写化モノとしても、日常の中の非日常モノとしても、特に新鮮味や驚きはなく、これらを『くまのプーさん』の設定でやってみましたという印象だった。ノスタルジーはあるけど、その文脈ならではの何かがあるかというと厳しい。

ここ最近、ディズニーは過去の有名な作品を実写化するとともに現代的な視線でアップデートするという試みをやっているが、どうも頭でっかちでオリジナルの作品が持っていた純粋な楽しさや美しさが疎かになっている面がある気がする。もうちょっと上手くやってほしい。
しの

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