鋼鉄隊長

プーと大人になった僕の鋼鉄隊長のレビュー・感想・評価

プーと大人になった僕(2018年製作の映画)
4.0
TOHOシネマズ梅田にて鑑賞。

【あらすじ】
営業職に従事するクリストファー・ロビンは、かつての友人「くまのプーさん」との思い出を忘れて仕事に明け暮れていた。家族との用事を断り仕事に向かったある日、彼はプーさんと再会する…。

 正直言って僕はプーさんを知らない。幼いころにアニメを観た記憶はあるが、内容はさっぱり覚えていない。この映画を観て、ピグレットが子豚だと知ったほどだ。何故かはわからないが今までニンジンの妖精だとばかり思っていた…。なので、プーさんを懐かしんで物語を楽しむことは難しい。かと言って逆に大人(クリストファー・ロビン)の立場で観ることも容易ではない。9月も半ばに入ったのに、いまだ自堕落な夏休みを満喫しているボンクラ大学生にとって、社会人の苦労には縁が無いからだ。背伸びして共感することは働く大人に失礼だと思う。
 では何故観に行ったのか。予告編で流れる「何もしないを毎日やっている」との発言に心奪われたのだ。それって「プーさん」ではなく「プータロー」ではないか? 我ながらツボにハマってしまい、予告編を観るたびに笑ってしまう。しまいには「コレって感動ドラマに見せかけたアホなコメディなのでは?」と思い、劇場に足を運ぶに至った。
 だがそれは間違いだった。拝啓くまのプー様、僕は貴方を誤解しておりました。「何もしない」とは素晴らしい考えですね! 言葉の裏に滲み出る彼の生き様を感じることが出来た。このクマさんはダンディな方だ。何十年経っても友人との約束を忘れず待ち続け、仲間が行方不明になれば探しに向かう。旧友に忘れられても嘆くことなく、変わらぬ友情を信じて優しく接する。霧に包まれた森の中でクリストファー・ロビンに冷たく突き放され人知れず姿を消したのには、胸がはち切れそうになった。不器用だけど白けずに、純粋だけど野暮じゃなく、人の心を見つめ続ける彼こそは正に「時代おくれの男」。プーさんとは、河島英五だった⁈ あれこれ仕事もあるだろうに、自分のことは後回しにしているからこそ「僕は何もしないよ」と優しく謙虚に語ることが出来るのだ。「何もしない」には、プーさんの美学が詰まっている。
 大人の寓話に見せかけたダンディズム映画。男たるもの泣きとおすなんて出来ないが、今日ばかりは泣かせておくれ。人生の教科書に出会えたのだから。今宵もプーさんは、蜂蜜を煽って静かに眠るのだろう。こんな男に僕もなりたいものだ。
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