茶一郎

プーと大人になった僕の茶一郎のレビュー・感想・評価

プーと大人になった僕(2018年製作の映画)
3.5
 働き方改革が進められる中、未だ17%もの企業が「その改革必要なし」と判断している日本社会に、プーさんは「『何もしないという事』をしろ!」「休め!」と喝を入れる。
 そんなプーさんによる働き方改革映画、道徳の教科書『プーと大人になった僕』は、プーさんの映画化としては一作目である『くまのプーさん/完全保存版』のラスト、「どんな物語にも終わりはある」というナレーションと共に幼少期から少年期へと移行するクリストファー・ロビンが言った名台詞「僕がいなくなってもここにきて、『なんにもしないこと』をしてくれる?」の続きから始まる『くまのプーさん/完全保存版』の続編的な作品になっています。

 しかしディズニーの製作姿勢が非常に挑戦的なのは、その続編を「実写で撮ってしまおう」というもので、原作者A・A・ミルンの息子さんのヌイグルミを元に創造されたプーさんたちをそのままヌイグルミとして表現し、映像面において「実写化」が一番、難しいであろう『くまのプーさん』の実写化に成功しています。
 ヌイグルミのプーさんがユアン・マクレガーと同じ世界を動いていても全く違和感がなく、可愛いので、本当に驚きます。

 物語面においても王道。「ディズニー映画的」という表現が的確でしょうか。2011年の再アニメ化『くまのプーさん』は、登場人物全てが「ボケ」、おまけに『デッドプール』でお馴染みになったメタギャグを連発する100エーカーの森の狂った世界観を見せつける映画でしたが、本作では「大人になったクリストファー・ロビン」と100エーカーの森の真逆にある「現実世界」というツッコミが加わったため何とも見やすい!後半のアクションシークエンスもサービスとして最高です。
 しかしながらこれが「『くまのプーさん』的か?」と聞かれれば、どうしても首を傾げてしまいます。上述の『くまのプーさん』(2011)のような「狂った世界観が良いんだよ!」という方にはきっと物足りず、そもそも大人になってから「もう一度、『何もしないという事』をしたいー」なんて、「何もしない事」を許された幼少期の象徴であるプーさんから脱し成長してしまう瞬間が感動的だった『くまのプーさん/完全保存版』から後退しているようにも思います。
 このガッカリ感は折角、『さようならドラえもん』で成長したのび太が、『帰ってきたドラえもん』でまたドラえもんを求めた時に感じたものと同じ。『劇画・オバQ』と比較しても、本作は「大人になった僕」を甘やかしすぎです。

 自分の「物語」を忘れてしまったアダルト版クリストファー・ロビン。本作の監督マーク・フォスターは過去に『主人公は僕だった』という映画で同じく、働きすぎて自分が自分の人生の「主人公」である事を忘れた男を描きました。その『主人公は僕だった』の実存的な問いは、『プーと大人になった僕』ほど浅いものではありません。
 きっと大人になったクリストファー・ロビンに必要なのは、プーの言うところの「何もしないという事をする」ではなく、『主人公は僕だった』の言うところの「自分の好きな事をしろ!」では無いかと思います。
 クリストファー・ロビンよ!家族もいいけど趣味を持て!
茶一郎

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