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プーと大人になった僕のumisodachiのレビュー・感想・評価

プーと大人になった僕(2018年製作の映画)
3.9
くまのプーさんの後日談的な実写映画化。大人になり家庭を持ったクリストファー・ロビンが、プーたちと再会して本来の人生を取り戻すお話。

かつて、100エーカーの森でプーたちと楽しい日々を過ごしていたクリストファー・ロビンは、寄宿学校に入るのをきっかけに、「100歳になっても忘れない」という約束をして森を離れた。その後、哀しい出来事も乗り越え、大人になった彼は愛する妻と出会い結婚。出兵するも、無事に帰還して妻と娘との3人暮らしを始める。しかし、勤め先である旅行カバン会社ウィンズロウ社の業績は悪化の一途。クリストファー・ロビンは、無茶なコスト削減案を提案するように指示され、家族との時間を犠牲にせざるを得なくなる。そんな中、彼の前に突然プーが現れ……。

「家庭か、仕事か」という、シンプルな問いを突き付け続ける極めてストレートな作品だった。「自分にとって何が大切なのか」ということを考える暇もないほど、仕事に忙殺されるクリストファー・ロビン。もちろん彼は家族のために働いているわけだが、目の前にいる妻や娘の悲しい表情には気づけない。久しぶりに目の前に現れたプーは、「それは風船よりも大切なことなの?」「"なんにもしない"じゃだめなの?」と、クリストファー・ロビンを執拗に問い正す。

お金のために、家族のために仕事をしているはずなのに、いつの間にか大切なことを忘れてしまうというのは、言うまでもなく誰にだって思い当たるテーマだろう。育休明け、夫や両家の両親、認可外保育園などをフル稼働してフルタイムでの職場復帰を果たした私もそうだった。下手したら朝ごはんのときくらいしか子供の顔を見なかったり、祖父母の家にお泊りさせることもザラ。3歳になろうとする息子の精神状態が不安定になっているのに気づいたとき、ようやく目が覚めた。「私、何やってるんだろう?」と。

少なくとも私は、仕事と育児のバランスを取ることができなかった。仕事をしていると、どうしても息子のことを忘れてしまう。仕事柄、オンとオフを切り替えることも難しかった。でも、間違いなく私の人生で最も重要な瞬間は、息子の妊娠が分かった時で、妊娠中は人生最高に幸せな期間で、息子が生まれたことが人生で1番大きな出来事だった。それだけは疑う余地がなかった。

正直、キャリアから離れたことを後悔する瞬間がないと言えばウソになる。でも、やろうと思えばキャリアはこれから先だって築いていける。でも、3歳の息子に寄り添うことは、あのときしかできなかった。だから、私は正しい選択をしたと信じている。関西移住というタイミングは、私に考えるきっかけを与えてくれた。(まあ、本当はあんなに無理しなくても両立できる環境が整っていれば良かったんだけど‥)

クリストファー・ロビンは、「仕事か家族か」で迷ったりはしない。彼の中で、家族が1番大切だということは疑いの余地がなかった。プーと会ったことで、彼はその事実を自覚したのだ。目の前にぬいぐるみが現れたとき、彼はすぐに受け入れた。プーが言うように、彼は何ひとつ変わってはいなかったのだ。ただ、大切なことを意識することを忘れてしまっていただけ。

「仕事と家族?そんなもの、家族の方が大切に決まっているじゃないか」この映画は、徹頭徹尾そう言い続けている。

斉藤和義の『月光』という曲に、こんな歌詞がある。ご存じだろうか?

『あっちの席でオッサンはいったよ「オレは百人の女と寝たぜ」
 こっちの席じゃ若者が「男の価値はなにで決まるのかな?」
 そしたらとなりの女が「そんなの"家族"に決まっているでしょう!』

もちろん、世の中には様々な形の家族がある。無条件に家族を愛するべきだなんて思わないし、ましてや血縁がすべてだなんて思ってはいない。でも、もし愛すべき家族を手に入れることができたならば、それ以上の幸運など他にはないのだと私は思う。

『ビッグ・フィッシュ』、『普通じゃない』、『ムーラン・ルージュ』、『フィリップ、きみを愛してる!』……そして『プーと大人になった僕』。ユアン・マクレガーは、ハッピーな愛をテーマにした寓話的なストーリーが世界で1番似合う役者だ。



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