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プーと大人になった僕のmのレビュー・感想・評価

プーと大人になった僕(2018年製作の映画)
4.7
冒頭でプーさん達が楽しげに歌い踊っている姿が映し出されると、そのあまりの異様さに一瞬気が狂いそうになった。しかしプーさんとクリストファー・ロビンが2人で送別会を抜け出して歩き始めると言葉にできないエモーションが生まれ始めて、その後何度か登場する事になる2人だけの『どこでもない場所』で彼らが並んで座っている姿には何故だか思わず涙腺が緩んだ。
ロビンが森を去ってから大人になるまでをダイジェストで描写する一連のシークエンスは素晴らしく、久しぶりにマーク・フォスター監督の良い仕事を観られた。章が飛び飛びになっているのがまた良い。


プーさん達のデザインが「パディントン」のようなリアルな生物感ではなくあくまでヌイグルミである事が、ロビンが(そして多くの観客が)無くしかけていた子供時代のイノセンスと人生の純粋な歓びとを思い起こさせるトリガーになっている。
それと同時にこのヌイグルミ感からは少々の不気味さや狂気も漂っていて、彩度の低い画のルックも相まって時折黒沢清映画のような不穏さが顔を出す感じもまた個人的には面白かった。

画の彩度の低さはこうした不穏さにも繋がっているが、一方で現在のロビンの心情を体現してもいる。何より35mmフィルムの粒子感を活かした画作りはこの作品に独特の手触りと暖かさをもたらしていて(一部はデジタルらしいけど)、まだ長編映画のキャリアは浅いらしいこの撮影監督の仕事は印象的だった。


基本的にはとても丁寧に作られた作品だが、終盤の大事な会話シーンの編集がやたらせわしないのは少々気になった。


『どこでもない場所』とあのテーマ曲のメロディが登場する度に、何か自分が失った大切なものを久しぶりに見つけたような感覚になり涙腺が緩む。
そして社会で消耗品扱いされている我々日本人にとっては、この映画の作り手達が描く希望は絶対に手の届かないもの故にあまりに眩い。
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