あでゆ

暁に祈れのあでゆのレビュー・感想・評価

暁に祈れ(2017年製作の映画)
3.0
タイで自堕落な生活から麻薬中毒者となってしまったイギリス人ボクサーのビリー・ムーアは、家宅捜索により逮捕され、タイでも悪名の高い刑務所に収監される。殺人、レイプ、汚職がはびこる地獄のよう刑務所で、ビリーは死を覚悟する日々を余儀なくされた。しかし、所内に新たに設立されたムエタイ・クラブとの出会いによって、ビリーの中にある何かが大きく変わっていく。

Filmarksの試写会で視聴。

最近観た『ブラッド・スローン』のような、刑務所内成り上がりストーリー。ただそのプロセスは、マフィアとしてではなく監獄内のムエタイ大会で勝ち上がるという点で大きく異なる。
相手の言葉がわからないというのも恐ろしい。敢えて訳されてない本作の現地語は一種のホラーとして機能している。だからこそ数回ついていたセリフの訳は要らなかったような気もしたが……。
とはいえ本作の方は主人公にはあまり感情移入できなかった。だって獄中でも柵の外でも自業自得だもんなあ。それでいてかなり短絡的で、何がしたいのかよくわからないところも多い。

もともとプロボクサーのはずだからそれなりには強いはずなのだけど、ムエタイ選手との初戦ではボロ負け。このあたりのボクシングとムエタイの違いや、なんで彼が弱いのかという説明がアレばさらに良かったが、とにかく喧嘩系ボクサーがカタを覚えて戦いに勝ち進んでいく。

ベスト・キッド的な要素も一応あり、例えば蹴りの作法を教えるシーンなんかは師弟関係が垣間見えてとても好み。この辺をもっと強めにしてくれればよかったが、作品は全体的に淡白目でドキュメンタリーより。
例えば『あゝ荒野』では試合そのものに注目させる魅力があったが、本作では主人公の魅力がいまいちというところや、どの試合に勝てばどうなるかというのもわかりにくく、敵がモブでしかなかったので、これらに関してはそこまでテンションが上がらない。
虎の入れ墨(自分に打ち勝つ証)を刻む描写などももっとじっくりと見せてほしかった。
ただし、この思いがラストのある選択に影響しているのは事実だろう。ここは非常にフィクション的だが、重要なシークエンスといえる。

刑務所内は西洋のそれよりもかなり劣悪。なにしろ半分野ざらしというか、ログハウスみたいなところに住まわされていて、逆に監獄という実感がなくなる。面会室もただ二重の鉄格子で面会者と隔てられるだけで、簡素というか雑以外の言葉が思い当たらない。こういったところを知ることができるのは本作の魅力の一つ。
描写も時に残酷で、レイプシーンや放送システムで拷問を中継される瞬間は本作の白眉であり、緊張感は高い。

そして日本以外のどこの国も刑務所の連中はみんな強制的に半裸で、アナルセックスはしてるんだな。劇中でエイズを脅しに使う描写はかなり衝撃的だった。映像的にどの画も全部男!男!男!刺々しいんだよな。
女性収容員が男性の慰安として扱われているというのも、西洋では考えられないだろうなと思ったり。

実際の犯罪者やエピソードを使っているというところもあり非常にリアリティはある。さらっと三人殺しましたとかいうあたりヤバさがすごい。
ただ、全身入れ墨でいかつそうな連中の割に、枕投げやったり、普通に喧嘩の仲裁したりと修学旅行のような和気あいあいとした面もあり、過酷一辺倒かというとそこまででもないような気がしてしまった。映画的には緩衝材のような時間。いや、絶対そんなとこに行きたくないけどさ。

非常に事実ありきで描かれており、その悲惨さたるや凄まじいが、物語としての構成には難ありな作品。
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