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暁に祈れのryacのレビュー・感想・評価

暁に祈れ(2017年製作の映画)
3.9
あれ、なんで俺イブの夜に一人で監獄モノのムエタイ映画なんて見に行ってるんだろう……

刑務所内が舞台だけあって全体的に暗い画面や少なめの台詞、ブレの激しい格闘シーンのカメラワークなど、正直序盤は辛く感じてしまった。
しかし、物語が進むにつれて主人公ビリーの受ける痛みや苦痛がビシバシに伝わってきて、最終的にはスクリーンを凝視するように物語に入り込んでしまった。

ムエタイ映画といえば『マッハ』とか『チョコレート・ファイター』とか、とにかく痛快でダイナミックで……みたいな印象があっただけに、本作で描かれる「アクション」というよりむしろ「暴力」な格闘シーンには心底ギョッとさせられ、凄いもの見たなという気分にさせてくれた。パンチが相手の身体に当たる鈍重な打撃音、コンクリートの地面に叩きつけられるときの生々しい音など……暴力描写の中でも『音』の演出が本気で怖い。

人物をバストアップで映す視野の狭いカメラワークが多様されていたり、全体的に暗めの画面などで刑務所という閉鎖空間の狭苦しさが表現されていたと思う。言葉の通じない屈強な男たちとともに閉鎖空間に閉じ込められたビリーの精神状態を追体験しているような感覚。

ものすごく重苦しい作風でありつつも、『あしたのジョー』の序盤を想起させるような独房でのトレーニングシーンや暴力的ながらも快活なムエタイクラブの面々など、スポーツ映画としてのカタルシスも用意されているのも良かった。最終的にたどり着く結末は『レイジング・ブル』的な後味。

見たあとはドッと疲れるけど、とてもいい経験したなと思えるような1本でした!
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