ベルサイユ製麺

暁に祈れのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

暁に祈れ(2017年製作の映画)
3.6
はーい、A24作品〜!
このスタジオの特徴と言えば…
…まあ、わたくしごときの言うこっちゃ無いですね。wikiとかでフィルモ見ていただければ何となく作品の傾向は分かると思うのですが、そんな中…特にここ1、2年に限って言えばこの作品『暁に祈る』は結構な異色作だと思いますよ。“どこが異色?”って、わたくしごときの言うことじゃないでしょ〜。


タイで収監されたイギリス人格闘家ビリー・ムーアが、もうひっどい、ひっどい目に遭った。それで、暁に祈ったのである。


意外!!…と言うのも、事前情報で主人公がムエタイファイターであると目にしていたのですが、最初の試合シーンでムエ・カッチューア(←ザックリ言うと、グローブ無し、頭突き有りの古式ムエタイ)をやっている!!映画で初めて見た気がしますよ、ムエ・カッチューア。そこから推測されるビリーという人物は…
⚫︎〈アドレナリンジャンキーである〉
或いは
⚫︎〈テクニカルなファイターでは無いがとにかく試合に出たい〉
それとも
⚫︎〈とにかく金に困っている〉
のどれかか、もしくは3つ全部。
で、このビリーがアパートでボンヤリとchillしてたところに警官が踏み込んで、…以降、タイ監獄の地獄めぐりを体験しますよ。
監獄+(タイ式だが)ボクシングと言えば『あしたのジョー』の事が思い出されますが、ライバルも居なければ、豚にも乗らない。基本的にドラマチックな事は起こらなくて、そのかわり猛烈に!劇的に!こっぴどい目に遭いますよ!落下傘部隊は無い。深夜にねじりんぼう(タイの監獄式だが)は有る!!ヒィ〜。
前半1時間はタイの監獄の様子がねちっこく描かれます。正直、主人公の個性が弱いこともあって、まるで監獄自体が主役みたいですよ。
勿論日本の監獄みたいにえどっこヨーグルトやアルフォートが食べられたりはしません!基本的に雑居房なんですけど、狭くてめちゃくちゃ人が多い。就寝シーン、よく慣用表現で“すし詰め”なんて言いますが、タイ式はもはや“赤福餅状態”ですよ!あんだけ肩くっつけて寝てると、一人トイレに起きたら全員くっついて起きちゃうんじゃないの⁇
で、今作の大きな売りの一つ…。囚人の皆様が単なるホンモノ!日本では“首まで刺青が入ってるのはホンモノ”なんて言いますがね、タイ式は瞼の上までタトゥー入ってますよね。中には顔に、顔のタトゥーが入ってるお方もいらっしゃいましたね…。当然、牢名主みたいのが仕切るカースト社会で、新入りの細っちい奴なんて一晩で(以下割愛💀)。流石タイだけあってレディー・ボーイの囚人も居るのですが、彼女たちは隔離されてアイドルの様な扱いを受けてたりします。意外とジェントル!
その他にも、上級囚人とズブズブの看守や、ムスリムの扱いなど、色々興味深い描写山盛りでしたね。「×××をうつしてやるぞ」っていう脅し文句、監獄BL(阿仁谷ユイジとか)以外で初めて聴きましたよ…。『監獄処刑人』で描かれるフィリピンの監獄のルーズさもなかなか嫌でしたが、タイはマジでヤバイ!…因みにビリーが何で捕まったのかは、正直よく分かんなかったですね…。
後半は、ムエタイに生きがい、活路を見出したビリーの訓練の日々が描かれて、試合シーン(他の監獄の選手とのバトル!どんなシステムなんだ⁈)がクライマックスになります。
…ところで自分、格闘技も半可通位なのですが、この映画のムエタイ、パンチの比重が高すぎませんか⁇
タイの選手はとにかく桁外れの試合数をこなすので、危険な頭部へのパンチ(パンチ一発で脳細胞10万個死ぬという説も…)を避け、遠い間合いのキックと、裂傷で済む“安全な”肘打ちを多用するものです。タイ人的には、“ムエタイ=安全⇨ キックボクシング=危ない⇨ ボクシング=マジやばい”という序列になってるそうなのですよ。因みに、ある年の“日本での”タイ人ボクサーの勝率は僅か4%だったそうです。興味深い…。
選手としてのビリーはいわゆるファイタータイプでパンチをブンブン振り回します。…これで勝てるとしたら、そもそも監獄のレベルが低いのか?って思っちゃいますね。あとビリーはヘロイン中毒でして、監獄内でもヘロインをチョイスするのですが、あんなの打っててよく相手をボコボコにできるものですよね。元々の気質が余程凶悪なのか…。
肝心の試合のシーンは…、まあこんなモノなのかな?半可でも格闘技好きだったりすると、映画のスポーツ格闘シーンは全部物足りなく感じてしまって損ですね。『ウォーリアー』とか全くピンとこない…。その辺り、ボクシングファンの方は特に強く感じてるのではないかしら?
試合シーンもさることながら、ストーリーのシンプルさ・何も起こらなさが凄くて、結果的にホントにタイの監獄の印象ばかり残ってしまうのですが…。エンディングで初めて気がつきました!コレ、実話なんですね!!うわぁ…、よく生きて帰ったもんだよ。

正直、薄いストーリー性とイマイチな格闘シーンのせいでだいぶ淡白な印象になってしまいましたが、日本人には縁遠いタイの刑務所の内側が垣間見れるだけで充分観る価値は有るのでは?
…なんて締めてみたんですが、実は以前興味深いツイートを見まして。コメント欄にリンク↓しましたので、お時間あれば是非!