オルキリア元ちきーた

暁に祈れのオルキリア元ちきーたのレビュー・感想・評価

暁に祈れ(2017年製作の映画)
3.5
喧騒
喧騒
喧騒…………

ビリームーアは何から逃げていたのか?

イギリスから
家族から
現実から
自分から

しかし

異国で対峙しなければならないのは
それ以上の熾烈な現実。

それでも彼は生きたいと思った

現実に怒り
悩み、迷い、逃げ、堕ち、絶望し
全てを失った時に
唯一頼れるのは
自分という存在だけ

そしてまた這い上がる。

芥川龍之介の「蜘蛛の糸」で
カンダタは欲に負けて這い上がることが出来なかったが
ビリーはその手に掴んだ切れそうな細い細い蜘蛛の糸を
ずっと握り締めていた。
たとえそれが何処にも繋がらない糸だとしても
手繰り寄せ続ける間は
それが生きる意味だからだ。

喧騒と暴力の中で見つけた生は

暴風の中で消えそうになりながらも
瞬間に訪れる逆風に煽られて
再び燃え上がる蝋燭のようだ。

その火が消える前に
夜明けを迎えられるように
祈り続ける姿は
愚かで、惨めで、傷だらけだ。

でも彼は
そこまで堕ちなければ
生きられない人間だった。
でも彼は
そこでは生きられない人間でもあった。

背中に刻んだ虎の姿は
削ぎ落とされた穢れという繭から這い出した
羽化した彼の羽根だ。

長い蛹の眠りから醒めた後
残された時間が限られているからこそ
悔いなく死ぬために生きられる。

夜明け前 Dawn Time が一番闇が深いから

新しい朝日が登り再び動き出す直前の
暗闇を振り払うためのパワーを貪り尽くせ