小松屋たから

かぞくいろ―RAILWAYS わたしたちの出発―の小松屋たからのレビュー・感想・評価

4.1
「コーヒーが冷めないうちに」「フォルトゥナの瞳」と出演作の公開が続く有村架純。今年の後半の日本映画界に若手女優は黒木華と有村しかいないのかという状態。たまたまであろうし、やむを得ない事情もあるのだろうが、製作者、配給側はちょっと考えた方が良かった。

でもそんなオファー集中状態の中、この作品への出演を決めた有村(マネージメント)には単なるアイドル女優でいたくない(いさせたくない)という矜持を感じる。

本作は「鉄道」というコアファンを持つ強いコンテンツを備えてはいるが、奇をてらうことなく正面から家族の在り方を描いた、しごく真っ当で良心的な映画だ。でも昨今の「売れ筋」からすれば地味かもしれない。だからこそかえって人気沸騰中の有村出演の意味は、本人の今後にとっても大きいと思う。人気が瞬間風速で終わらないように色々な布石を打っているのかもしれない。

主役の登場があまりに唐突で、(鹿児島で)初対面の「父」と一緒に暮らし始めたいと言い出す動機も分かりにくいが、それは脚本も兼ねる吉田監督は百も承知だろう。きっと、異邦人が突然家に現れて家族になろうとアピールしてくる驚きを観客に同時体験して欲しかったのだろうと推察する。

主人公の過去をあえて深く訊ねない父は、戸惑いと恥じらい、プライドを巧みに表現していて、共感できた。さすが國村凖。

有村架純の運転士姿はコスプレ感が否めなかったが、風景と一体化することで不自然さは緩和されていたように思う。まあ突然運転士になったわけだから板についていない、というのはむしろ自然なことかもしれない。

今回はシリーズモノの流れがあるとはいえ、自身のオリジナル脚本作品で大手配給での公開を実現し続けている吉田監督は本当に素晴らしい。