カツマ

記憶の夜のカツマのレビュー・感想・評価

記憶の夜(2017年製作の映画)
4.0
今も悪夢に襲われる。朧げな記憶、フラッシュバックする刹那の断片。牧歌的な風景に浮かぶシミ、それはジワジワと血溜まりのような模様を残し、平和な日々を薄闇に染める。何かがおかしい。何か、違和感がある。それに気づいた時、閉ざされていた恐怖の扉は開かれて、記憶の夜は幕を開ける。

韓国映画はNetflixとは早い段階から蜜月の存在にあり、この2018年作品もまた、そんな状況の中で生まれた一本である。2017年の『オクジャ』そしてこの『記憶の夜』。Netflixはその後も良質な韓国映画を数多く配信したが、そこへと連なる重要な作品と呼べるだろう。主演はメインキャストを演じることの多い、若手人気俳優カン・ハヌル。共演には『悪人伝』など、特に二番手、三番手での役柄でインパクトを残してきたキム・ムヨル。記憶の底に眠る真実とは果たして何か?段階を踏んだ超展開が魅力なだけに、絶対にネタバレはせずに見てほしい作品だ。

〜あらすじ〜

時は1997年。21歳のジンソクは、父、母、そして大好きな兄と一緒に引っ越し先の新居へと向かっていた。兄は文武両道の神童で、ジンソクにとっては憧れの存在。交通事故によって右脚に後遺症を残していたが、それでも兄が誇りであることに変わりはなかった。
新居に着くと、前の住民の荷物が残っている部屋があり、ジンソクは兄と同部屋に。二人は軽口を交わしながらも仲の良さは相変わらずで、ベッドを隣り合わせで就寝した。
その夜、例の使用禁止の部屋から何やら物音がする。ジンソクはそのドアを開けようとするも、兄に促され、夜間の雨の中、傘を刺しての散歩に出かけた。
高台から街を見下ろす二人。だが、父からの電話を受けた兄は家に一人で戻るも、その道中に何者かに拉致されてしまう。警察に車のナンバーを話しても追跡はできず、途方に暮れる中、19日後、ついに兄は帰ってきた。しかし、そんな兄の様子がおかしい。誘拐されていた間、兄の身に何かあったのだろうか・・?

〜見どころと感想〜

この映画は絶対にネタバレを踏んではいけない作品である。なので、Netflixのストーリーだけを頼りに鑑賞してほしいと思う。(上記のあらすじにも基本的にネタバレはない、はず)
兄が拐われ、19日後に戻ってくる。だが、帰ってきた兄に異変があって、、という謎めいたストーリーだけですでに魅力的だが、そこから思いもよらぬ方向へと我々は連れ出され、様々な記憶を夢想し、そして、怒涛のラストまで手を引かれ続けるのである。

主演のカン・ハヌルは役柄に見事にフィットしていたが、やはりその演技力という点ではキム・ムヨルの方がインパクトは大きかった。何も書けないのが残念ではあるが、その名演は後半に向かうにつれて本領を発揮していて、物語の設定を体現した役柄を見事に演じ抜いている。ムン・ソングンなど、脇役に適した配役もこの作品の重要なスイッチとなっていて、前半と後半で彼らの表情がどう変わるのかを見てほしい。

序盤の段階でいくつか伏線はあるのだが、それがどう回収されるかは相当な創造力を有するはず。
『記憶の夜』というタイトルは何を意味するのか?この作品はどこか不穏な空気を纏っていて、その仕掛けが炸裂する瞬間をジリジリと待っている感覚だけがジワジワと忍び寄る。これぞサスペンス。謎は確実にあり、推理するこちらの思考を擦り抜けるのだ。煙に巻かれ、記憶の底へと没入する。その中を泳ぎながら、主人公が辿り着く場所は時間と共に解き明かされることだろう。

〜あとがき〜

Netflix映画の中でも特に評判の高かった本作をようやく鑑賞。記憶が鍵となってくるため、どこまでが本当でどこまでが幻か、という点において疑心暗鬼が途切れることはない作品でした。しかし、韓国映画なだけに後半部の壮絶さはなかなかのもの。冒頭で交わされる平和な家族の物語が長くは続かないことだけは分かってはいましたが・・。

設定に物語が負けないあたり、さすがは韓国映画というクオリティでした。正直最後まで騙されていましたが、こういう映画は騙されながら見たほうが面白いと思っているので、見事なまでに騙されながらエンドロールを待つことになったのでした(笑)
カツマ

カツマ