えいがうるふ

千と千尋の神隠しのえいがうるふのレビュー・感想・評価

千と千尋の神隠し(2001年製作の映画)
5.0
この作品の素晴らしさは主人公千尋と同じ年代の子供達が見てこそ分かるもの、と思っていたが、何度も観るうちに、いやいやこの滋味が分かるのはせめて30代以降だなと思い直した。

ジブリ作品で名作と言われるものには架空の国が舞台になっているものが多いが、西欧あるいは南欧の明るく乾いた陽光が感じられるそれらの背景は年を経るほどに味気なく思えるようになった。
今になって、やはりジブリの神髄は日本が舞台の作品にあるとしみじみ思う。匂い立つような緑、昼なお暗い陰翳に富んだ室内、ハッとするような艶やかな夜の情景・・常に目に見えぬ物の気配を漂わす湿度の高い日本的空間を再現してみせるジブリの画力には、いつも涙ぐみたくなるような感動を覚える。

海面を走る電車に乗ってるシーンが一番好き。この実在しない景色ですら、私の中の心の原風景を彷彿とさせるような気がして、スルッと染みこんでくる映像に何故か目頭が熱くなる。
そこへきて久石譲の音楽がまたすごくいい。公開当時このサントラ弾きたさにピアノを習い始めたほど。

一見分かりやすいようで色々な隠喩が含まれた深遠なストーリーも秀逸で、カオナシを他人とは思えない私は、弱き者、異形の者への優しさに溢れた作品世界に心の深いところをヨシヨシされて、観るたびについ涙ぐんでしまう。

後に海外メディアの評を読んで「八百万の神」という概念になんの違和感もない自分に気付き、これまた日本人である自分を再発見させられた。